『ルパン三世 カリオストロの城』は、可憐なだけの女の子像を生みだした宮崎駿も罪作りなおっさんだと思った。

近頃、若い男の間で結婚相手に「お姫様願望」があると何かで聞いたが、このアニメを観るとその意味がよく分かる。と言っても、このアニメができたのは、今から35年以上も前だが、確かにこのアニメのヒロインのようなな可憐な乙女なんかこの世にいるはずがないのだが、生身の大人の女に怖じ気づくひ弱な男が、可憐な少女の幻想を追い求めているのではないだろうか。(クラリスは可憐なだけじゃなくて、しっかりものだけれど。) 
 
小学校や中学校の男性教諭に変態性向の持ち主が結構多いのも、こんなところに隠された一因があるのかも知れない。変態といえば医者と坊主と教師と昔から相場が決まっているが。浮世離れした乙女イメージにあこがれるロリコン野郎は困ったものだと思うけれど、現実にはありえない可憐な女の子像を生みだした宮崎駿も罪作りな人だ。
 
ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンの方がまだしもリアリティがあるんじゃないか。オードリーは生身の人間だからリアリティがあるのは当然だけど、しかし、あの声優(島本須美)の、あの声で『おぢさま』なんて言われたら、いかに謹厳実直、石部金吉な私ですらメロメロになることだけは請け合いだ。
 
が、それはあくまで若い女の子とおじさんとの関係であって、若い男女の関係ではない。昔「若者よ、体を鍛えておけ」というスローガンがあったが、体力だけでなく胆力も鍛えておいたほうがいい。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆アニメにつっこみ入れてもしょうがないような気もするが、冒頭のカジノから金を盗んで逃げ出した二人はルパンと次元だったが、あれは、ルパンと五ェ門だろ。追っ手の車を一刀両断にしりするんだから。それと、車から盗んだ偽札を高速道路でバラまくってのはいただけません。あんなことをしたら、この間の中国のように、パニックになって、大事故が起こるんじゃないか。ルパンは盗人だが、他人を巻き込んで、大惨事を引き起こすようなキャラクターではないはずだ。
 
このアニメで、ルパンは10年前の駆け出しの泥棒だった頃にクラリスと出会ったとされている。つまり10年前は新卒ルーキーだったのだ。確かに回想シーンで、女の子をまわりにはべらせて酒なんか飲んでいたみたいだから、高卒ルーキーではないようだ。大卒なら一応22才。この映画の現在で32・3才くらいか。なんとなく納得だ。◆解除◆
 
このアニメでも言える本質的な疑問点を考察したい。と、もったいぶっているが大したことではない。勧善懲悪ものに共通して言えることだが、悪役の手下たちはなぜ手下になっているのかということである。冒険活劇物には必ず敵の手下が大勢でてくるが、彼らが進んで手下になりたがったとは到底思えない。親分が人格者で、男心に男が惚れたとも思えない。手下にさせられているとすれば、それはどのような契約に基づいているのか。何らかの使命あるいは目算がないと人間は共同して事に当たらないものだ。あの松本某のようにマインドコントロールかもしれないが、親分だけがいい思いをするような状況では、決して誰も命を懸けてまで協力しはしないだろう。
 
戦国時代の下克上を見れば一目瞭然。親分は子分に褒美をやらなければ、子分は親分を簡単に裏切る。それが人間の業というもの。だから、ロボットでもない限り、悪の親分のために惜しげもなく命を捨てる子分たちという存在そのものが不自然に思えてならない。
 
このアニメの場合、伯爵の家来の中でも、正規部隊の軍服組は明らかに国家公務員として雇われているのだろうが、裏の暗殺部隊は私兵、伯爵の手下だ。彼らはどういう条件で悪事の片棒を担いでいるのだろうか?思うに、このアニメの手下たちは、きっと普段は地下の偽札製造工場の優秀な印刷技術者なんだろう。
 
しかし、偽札を刷って巨万の富を得ているのが伯爵一人だとすれば、そんな割の合わない仕事につきあうバカがどこにいるのか。と思ったが、このアニメの舞台になっている「カリオストロ公国」は、小なりといえども400年も続く封建体制なんで、家臣には忠君愛国意識が骨がらみになっていて、悪いことをやっているとの良心の呵責を感じてはいても逆らえないのだろう。逆らえば強制収容所行きかも。すまじきものは宮仕えとはいっても、会社なら辞めればいいが、国民を辞めるのは難民になるしか手がない。
 
その点、海賊は手下もしっかり悪者揃いで、やりたい放題の悪逆非道を行っている。どうも古今東西、男の欲望の行き着く果ては、酒池肉林(つまりハーレム)のようだ。あの手下たちも、それぞれに自分なりにお楽しみがあるのだろうか? 
 
このアニメは、宮崎駿のヨーロッパ好きが遺憾なく発揮された映画でもある。出てくる車は、チンクチェントに2CV、ルードヴィッヒ2世のノイシュヴァンシュタイン城をもしのぐ華麗な城館と、そこいらじゅうにノスタルジックなヨーロッパがちりばめられている。あのような西洋趣味は、最近の「千と千尋」でもそこはかとなく感じられる。ところで、なぜか埼玉県警のパトカーまで出てくるのだが、左ハンドルなのなぜ?
 
しかし、光陰矢の如し、今や山田隆夫納谷悟朗も鬼籍に入った。峰不二子増山江威子さんはすでに喜寿を迎えられたとか。いやはやなんとも。
 
監督:宮崎 駿
声優:山田康夫 横山江威子 島本須美小林清志井上真樹夫納谷悟朗