『カサブランカ』は、思わず『ボギー!あんたは男だ』と叫んでしまいそうになった。

カサブランカ』直訳すれば「白い家」。地名だから「白屋敷」とでも呼ぼうか。別に漢字を当てる必要はないけれど、ニューヨークを紐育と書いたり、桑港、華盛頓、倫敦、巴里、伯林など、都市名の当て字が結構ある。阪急電車宝塚線には「雲雀丘花屋敷」という駅があったりする。(関係ないが・・・)
 
話変わって、例のハンフリー・ボガ-トがイングリット・バーグマンに言う"Here is looking at you, kid."が、なぜ「君の瞳に乾杯」と訳されたのか?しかも、これは映画史上希にみる名台詞と言われている。直訳すると、「君を見てるよ、ほら」とでもなるのか。
 
しかし、なぜ「君の瞳」なんだ?見ているのが自分の目だったら「君を見ている俺の瞳に乾杯」と違うのか?いや、やはり恋人同士が見つめ合うときはお互いに相手の目を見るから、相手の黒目に自分の顔が映っているのを見て、つまりそれくらい顔と顔をくっつけて、決め台詞を言ったのだったら、ここは「君の瞳に乾杯」でいいかも。 
 
しかし、いくらハンフリー・ボガートでもちょっとキザ過ぎる。あんな台詞を何回も聞かされたら、大抵の女の人は、「いいかげんにして」と思うのじゃないだろうか(推測に過ぎないが)。なぜこんな話を始めたかというと、映画の字幕スーパーは、短いフレーズにしなければならないから、結構端折ったったり、思いっきり意訳してあったりするけれど、あれでは映画を観て英語を覚えることはできないとつくづく思う。
 
最近のDVDは英語字幕もあったりするから、何て言っていたのか分からなかったときは英語字幕で確認することもできる。その国の文化や言語、特に慣用句やスラングを知らずに外国映画を観ると、妙なものを観たと好奇心は満足できるが、本質的には何も理解できてないのかもしれない。極言すれば、翻訳小説は文学作品たり得るか、という問題にまで行き着く。か? 
 
まぁ普通に映画を愉しむためには日本語字幕は欠かせない。ただ、変な意訳はやめてよ、とお願いしたいだけだ。映画の邦題と同じで、極端な意訳はグローバルスタンダードじゃない日本向けだけの妙なイメージが出来上がってしまうような気がしてるのは、はたして私ひとりだろうか?(この言い回しもやたら使っているが)ネイティブ同士でも、世代や人種、その国が階級社会だったら階級によって、理解出来ない言い回しはあるだろうから、結局のところ、この問題に深入りしても何の解決策もないということか。
 
NHKのニュースで、外国の一般人がインタビューを受けているときに、妙な吹き替えが入ることがままある。それが農民だったらいかにも田舎のおっさんのような言い回しだし、若いおにいちゃんやおねえちゃんの場合は、蓮っ葉な感じの言い回しで吹き替えられている。あれは絶対やめるべきだ。いくら目の悪い人がニュースを見て(聞いて)いる場合もあるといっても、一般人のコメントだけを吹き替えにしているのが、いかにもNHKらしい姑息なやり方に思えて気に入らない。同じやるのだったら、すべてを吹き替えにしろ。オバマプーチン金正恩も声優を決めて吹き替えにせんかい!
 
前置きが長くなりすぎた。『カサブランカ』は若かりし頃に観て、感動というか、すっかりハンフリー・ボガ-トの虜になってしまった。(しかし、イングリッド・バーグマンはキレイだった)男はああいう生き方をしなくちゃいかんと思いこんだものだった。ただ、如何せんボギーほどハードボイルドにできなかったので、『夕べはどこにいたの?』と女に聞かれて、"That's so long ago I don't remember"「そんな昔のことは、覚えていない」とか『今晩会ってくれるの?』と迫られて"I never make plans that far ahead."「そんな先の計画は立てらない」 というようなカッコいい台詞を吐く機会はついぞなかった。
 
今回DVDで見直すまでに、少なくとも5~6回は映画館で観ている。ここ25年はほとんど映画館に足を運んでないから、若かりし頃に頻繁に観たわけだ。といっても、当時すでに名画座でしか観られなかったのだが。映画の各シーンのスクリーンショットを集めた洋書(写真の下にそのシーンの台詞が書いてある)を東京のイエナ書店で買って、自己流の翻訳(けっこう逐語訳)をしていた記憶がある。第2次世界対戦の最中に作られたハリウッド映画がこれなんだから、やはり日本は戦争をする相手を間違えたとしか言いようがない。
 
ハンフリー・ボガートは決してハンサムとは言えないが、男好き(男が惚れる感じ)する面構えをしている。白のタキシードやトレンチコート、中折れ帽、米軍の軍服もよく似合うし、キャサリン・ヘップバーンと共演した『アフリカの女王』のときのしがない船長のカッコやネクタイをはずしたワイシャツ姿もカッコいい。何よりもくわえタバコが決まっている。この映画のときで43才。う~ん、若いなぁ。それでこの渋さだ。しかも、45才で24才年下のローレン・バコール(先日お亡くなりになった。合掌)と4度目の結婚。それに生粋のニューヨーカーだ。一方、私の方は、タキシードは持っていないし、トレンチコートも中折れ帽も、当然軍服も持っていない。たまに被るのは阪神タイガースの野球帽だし、嫁さんは年上だ。タバコは13年前にやめたから、くわえるのは歯ブラシくらい。でも、まぁ、これでも生粋のオオサカーではある。
 
ところで、この映画の中で酒場の客が「ラ・マルセイエーズ」を合唱するシーンでぐっと来て、思わず涙ぐんでしまったのは、果たして私ひとりか? この「ラ・マルセイエーズ」というフランス国歌が、またとんでもなく右翼で、随分血なまぐさい好戦的な歌詞だいうのをWEBで調べて分かった。 
 
いざゆかん 祖国の子らよ
栄光の日がやってきた
我らに対し 専制者の
血塗られた旗印が掲げられている.
聞こえるか 我が国土に
残忍な兵士の叫びが響くのを 
彼らは我が国土深くに侵入し 
息子たち 妻たちの喉を切り裂こうとしている.
武器を取れ 市民諸君!
大隊をつくれ!
進め!進め!
不純なる血が
我らが大地を染めるまで!
出典:『ラ・マルセイエーズ』を歌おう 』
 
さて、この映画のハイライトシーンは、◆◆ネタバレ注意◆◆バーグマン演ずるイルザがピアノ弾きのサムに "As time goes by."「時の過ぎゆくままに」を"Play it once, Sam, for old time's sake." 「もう一度弾いて、サム。昔の想い出に」と頼み、サムがしぶしぶ弾き語りを始めるてぇと、ボガート扮するリックがすっ飛んできて"Sam, I thought I told you never to play ..." 「サム。その曲は2度と弾くなと言っただろ」そこで、イルザに気づき・・・う~ん、よかったなぁ。あの場面。
 
それから、最後の飛行場の別れのシーンも。イルザの目から大粒の涙が。ここでは泣かなかった。その前に、ブルガリア人の若い嫁さんの頼みをリックが一旦突っぱねたように見せておいて、ルーレットでわざとその旦那に勝たせるシーンもよかった。思わず『ボギー!あんたは男だ』と叫んでしまいそうになったんは、果たして私ひとりだろうか?◆解除◆
 
さて、さて、この映画でつっこみを入れおかないといけないのは、映画の背景になっているモロッコは当時フランスの植民地で、そのカサブランカで、フランス人とドイツ人が、我が物顔で酒を飲んだり歌ったりしていることだ。しかも、リックはアメリカ人でナイトクラブの経営までしているという設定そのものだ。製作時期が1942年だから、今頃文句を言うのもなんだけれど、アメリカ映画は、アフリカに対して往々にして能天気なところがある。ターザンしかり。現地人の暮らしは、いかほどに悲惨だったか、推して知るべし。
 
 
カサブランカ CASABLANCA(1942)アメリカ
監督:マイケル・カーチス
出演:ハンフリー・ボガート イングリット・バーグマン、ポール・ヘンリード、クロード・レインズ