『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』の犬の鳴き真似で非情な現実に精一杯抗議するシーンに胸が詰まった。

スウェーデン映画というと、かつてはイングマール・ベルイマンだったが、最近はラッセ・ハルストレム((舌咬みそうな名前だが)らしい。といっても、この映画まではスウェーデンで製作されていたが、これ以後はアメリカに渡って製作しているから、アメリカ映画になってしまった。「ギルバート・グレイプ」「サイダーハウス・ルール 」なんかは、なかなかのものだった。「ショコラ」「シッピング・ニュース」あたりからは、どうかな?
 
レイダル・イェンソン原作の小説の映画化で、50年代のスウェーデンの田舎町が舞台だ。私は主人公のイングマル少年と同年代、いや、もうすこし年下か。でも、テレビを初めて見たのは、3軒隣のお宅だったし、皇太子(現天皇)の結婚パレードの実況中継を見るためだけに、わざわざ叔母さんちに姉と行ったことも覚えている。わが家にテレビが来たのはそれから5年くらい後だった。
 
スウェーデンというと北国だから、もっと厳格な人ばかり住んでいるという先入観があったが、この映画の、特に田舎町の親爺やおばさんは、ほとんどイタリア人かと思うくらいに明るく陽気だった。しかし、フリーセックスで有名になった国だから、石部金吉ばかりなはずがないのは、考えれば分かることだ。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆この映画で、気に入っているシーンは、男女(おとこおんなと読む)のサガちゃんのふくらんできたおっぱいを目立たなくするために、イングマルが布で縛ったらいいのじゃないかと進言するシーンだ。女として見られることを拒否しているサガちゃんの存在を認め、またいっしょにボクシングをするイングマルは結構いい奴だった。
 
このイングマルは結構女の子にもてる奴で、町に戻ったら、もうひとり、カエルちゃんというガールフレンドがいる。我がイタ・セクスアリスを紐解いて、どこを探しても、サガちゃんのような美少女は見あたらない。要するに、ガキの頃からもてなかったということだ。◆解除◆
 
艶福のある人というのはいるもので、子どもの時からモテモテの人生を送り、両手の指ではとても間に合わない数の女性遍歴の持ち主が周りにもいたが、こちらは、とんとその方面には暗かった。未だに暗い。この先はもっとく暗い。誰とも出会わない闇夜の田舎道並みだ。わが家の息子たちもスーパー奥手林道なので、親としてはやきもきしてたが、昨年やっと孫が生まれた。ところで、あのサガちゃんもかわいかったが、倉本聡のTVドラマ『北の国から 87 初恋』にでていた麗ちゃんもかわいかった。それが長じて真珠夫人になるなんて。。。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ただ、この映画は性の目覚めだけが主題じゃなくて、結構過酷な運命に翻弄される少年の心の成長を描いている。有名な「人工衛星に乗せられて餓死したライカ犬よりは、僕の方が幸せだ」の台詞や、犬の鳴き真似で自分をとりまく非情な現実に精一杯抗議するシーンには、胸が詰まった。◆解除◆
 
個人的には『スタンド・バイ・ミー』の方を贔屓にしているが、この映画も子どもが主役の映画としてはよくできていた。ちょうどこの主人公の年頃は、我々にとっては、性の目覚めのまだ少し手前で、色気づくのはもう少し後だった。
 
まあ、スウェーデン人は早熟だから、われわれより2年くらい先行してたかも。最近は日本もマセたガキが多くなって、下手すると幼稚園で色気づくガキも出てくる始末だが。色気だったらまだしも、殺しも低年齢化がはなはだしい。しかも猟奇殺人だ。
 
マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ Mitt Liv Som Hund.(1985)スウェーデン
出演:アントン・グランセリウス メリンダ・キンナマン