『シカゴ』は、最後の舞台のシーンを愉しむだけで、充分元をとった気になる。

キャバレーもの、ダンサーものといえば、ご贔屓はライザ・ミネリの『キャバレー』だったが、この映画もかなりよかった。同じダンサーものでも『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は、なんともはやダーク&ヘビーなお話で、唯一の救いはこれも『シェルブールの雨傘』の頃からのご贔屓だったカトリーヌ・ドヌーブが、おばさん役で出ていることを発見したことくらいだ。
 
あの映画を「暗く重いテーマでもミュージカル仕立てにできるということを証明した実験映画」と看破した映画評をどこかで読んだが、うまいこと解釈するもんだと感心した。この監督の非人間性追求の旅は、『ドッグヴィル』で、もっと凄いことになっていた。目を背けたくなる感じだった。
 
この映画も、殺人犯がヒロインだから、充分ダーク&ヘビーなはずだ。ところが、えらく派手じゃないか。陰々滅々としたところは一切なし。全編あっけらかんだった。最初に歌と踊りのミュージカルシーンが出てきたときは、これは、ダンサーの話だから、仕事で踊ったり歌ったりしているシーンだと思っていたら、あれ?どうもそうじゃない。「この映画、ひょっとしてミュージカルと違うか?」と感じ始めたのは、なんという不覚、映画が始まってしばらく経ってからだった。
 
後で分かったことだが、元々ブロードウェーの大ヒットミュージカルが先にあって、それを映画化したとか。監督が振り付けもしているというか、振り付け師が監督した映画だったことも後で知った。なんとなく納得。ミュージカル方面にはとんとうといもので・・・。
 
事前の情報、つまり他の人が書いた映画評やらレヴューの類をほとんど読まずに観るものだから、ときどきカンクル〜ワ映画を観せられる羽目になる(DVDの箱に書いてある解説すら読まない)。
 
しかし、この映画の場合は、ミュージカルだからダメということは全然なく、結構よくできたミュージカル映画だった。ヒロインのロキシー・ハート役のレニー・ゼルウィガーは、ちょっとマリリン・モンロー似の雰囲気があって、といってもこっちはペチャぱい(前回の『至福のとき』からペチャぱい続き)、色気ではモンロー様に歯が立たないが、どこか相通じるかわいらしさがあった。
 
これが、この女優がこの映画のヒロインとして抜擢された理由、天賦の才というものだろうか。歌も踊りも芝居も結構頑張っていた。それと、もうひとりのキャサリン・ゼタ=ジョーンズ、こちらの方がどうも世間の評価は高いようだ。事実アカデミー賞の助演女優賞をゲットしている。こういう気の強そうな女性は、私的にはパスだが、確かにバリバリのプロという感じだった。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆このお二人、お互い好かんタコ状態なんだが、葛藤というか、つばぜり合いというか、刑務所の中でも女の戦いを繰り広げる。どちらも裁判で無罪を勝ち取れないと絞首刑になってしまうのだが、必死まめたんに芝居しまくり、モンロー似の方は、リチャード・ギア扮する辣腕弁護士のおかげもあって、うまい具合に陪審員をだまくらかして晴れて無罪を勝ち取り、もうひとりの方も司法取引でちゃっかり無罪になって、結局は元殺人犯の悪党コンビで売り出すという芸能界サクセスストーリーだった。(いささかアバウト過ぎるやも?もっとマスコミ操作の恐ろしさとかニュースのワイドショー化の愚かしさとかの高尚な方向に行くべきだったかも?)◆解除◆
 
ま、固いことは言いっこなし。まさに『ALL THAT'S JAZZ.(なんでもあり)』、歌と踊りがめちゃいい。リチャード・ギアも結構よくやるよ。最後の舞台のシーンを愉しむだけで、充分元をとった気になる。アメリカ人はこの手のエンターテイメントものは本当にうまい。お楽しみのツボを心得ているというか、まさに『至福のとき』に浸らせてくれる。この映画の場合は、5.1chサラウンドだといっても、DVDより映画館の方がずっと臨場感があってよさそう。というか、ブロードウエーの舞台を見るのが一番かも。。。
 
そういえば、米倉涼子が、2012年7月に1週間、ブロードウエーの舞台で、この「シカゴ」のロキシー・ハート役をやったらしい。評判はいまいちだったようだが、日本人女優として、ブロードウェイで1958年のナンシー梅木以来の主役を張ったのだから、ま、「あっぱれ」をあげておこう。
 
もうひとつ、特筆しておかなければならないのは、『ミスターセロハンの歌』だ。セロハンというのは和製英語ではなくて、れっきとして英語だった。もっともセロテープは外国人には通じないが・・・。それにしても、あんなに哀愁の漂うオーギュストの道化師を見たのは久しぶりだった。この映画のなかで、あのおじさんは唯一真実の人だった。あのオーギュストと『天井桟敷の人々』でジャン・ルイ・バロー扮するホワイトクラウンと、どちらがペーソスがあるかといえば、断然セロハンのオーギュストだ。バローのホワイトクラウンは、めちゃエレガンスだったが・・・。 
 
注:道化師にはオーギュスト(もじゃもじゃの赤毛のハゲヅラに山高帽、赤いでか鼻をつけ、だぼだぼのズボンを履いている方)とホワイトクラウン(白っぽい衣装で、顔も白塗り、細長いとんがり帽みたいなのをかぶっている場合が多い方)の2タイプがあるというのを知っているだけでもエラい。と、思いません?
 
エエ〜っ!?あの『ブリジット・ジョーンズの日記』に出ていたぽっちゃりの娘が、この映画のペチャぱいの方だって?う〜ン。女は分からん。
 
シカゴ CHICAGO(2002)アメリカ
出演:レニー・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、リチャード・ギア