『ゴールキーパーの不安』は、ワケの分からない前衛小説を原作にして、分かりやすい映画になるはずがない。

また性懲りもなくヴィム・ヴェンダースを観てしまった。それでもまだDVDが9本も残っている。酔った勢いで、ネットオークションでまとめ買いしてしまったのが、そもそも間違いだった。
 
しかし、この劇場用長編デビュー作で、あ奴は一体何が言いたかったのか?ハリウッドものでは、少なくともプロット(スジ)だけはあるだろう。生の牛スジみたいな咀嚼できないシーンを繋いだだだけの映画では、まず投資家は金を出さないだろう。もっとしっかりスジを煮詰めてから映画を撮れよ。ヴィム・ヴェンダースは、『パリ、テキサス(まあまあ)』と『ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ(ドキュメンタリーだが、出演しているジイさんたちがめちゃよい)』の2本を観ただけだから、名監督なのか、へボなのか、本当のところはどうなのか、性急には断定できないが、この作品に限れば、何じゃこりゃ?だった。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆一応プロのサッカー選手、しかもゴールキーパーの主人公が、試合中に、オフサイドの判定でキレて退場になって、その後ヤケになって町中をほっつき歩き、行きずりの女をナンパしたり、映画館でレイトショーを観たりして時間をつぶしているうちに、切符売りの女の子をストーカーもどきにつけ回し、挙げ句の果てに一宿一飯一セックスの恩義に預かってしまうという、イクラなんでも、そんなに調子よく世の中は行かんだろと思っていたら、今度は行きずり殺人事件じゃないか。こんなヘンテコリンなシナリオ、テレビの『みちのく温泉芸者殺人事件』で使ってくれと頼み込んでも、プロデューサーに「こんなしょーもないシナリオいらんわい」と言われるぞ。
 
そもそもオリバー・カーンほどの知名度はないかも知れないが、海外遠征に参加するくらいの選手だったら、世間の人も、顔くらいは知ってそうなもんじゃないか。しかも、その後の展開も解せない。そこいらをうろつきまわる主人公は、どうも昔の知り合いらしい女が経営している旅館に転がり込みのだが、そこでも、実にくだらない騒動を引き起こしたりするだけで、話は一向に進展しない。淡々狸の大行進だ。(不覚にもここで寝てしまった)◆解除◆
 
翌日。意を決してDVDに再挑戦したものの、またしてもラビリンスのようなスーダラ話の中で迷子の迷子の子猫ちゃんになってしまうのだった。かつてフランツ・カフカの熱心な読者だったので、「不安もの」「不条理もの」には慣れっこのはずだから、「こんなものではへこたれんぞっ!」主人公の名前がヨーゼフだと分かったとき、頭に浮かんだのは、カフカの名作『審判』の主人公ヨーゼフ・Kだった。あの『審判』をあの『城』を読破したのだから。。。たった2時間たらずの辛抱だ(辛抱してんのかい!)と再々挑戦。
 
三度目の正直となるか、二度あることは三度あるのか、仏の顔も三度か、吉と出るか凶と出るか、賽は振られた。毒喰わば皿までだ、最後まで観てやるぞ~。(そんな大袈裟なものか)この手の監督は、観客をおちょくるのんが好きだから、こちらもおちょくりながら観るとおあいこだ。主人公への感情移入一切なし、ストーリーの好意的深読みなし、シーンの好意的辻褄合わせなし、ないないずくしだ。こんなにまでして観なくてもいいようなものだが・・・。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ところが、この主人公、結構いろんものにケチつけるのだ。サッカーの試合を見ているときも、ああだこうだと、うんちく垂れまくっている。と、なんと唐突にエンドロールが始まった。ワケが分からないうちに、ゴールされてしまった、あの「ドーハの悲劇」みたいな終わり方だった。3日遅れの便りを載せた涙の連絡船なら聞いたことがあるが、3日がかりでエンドロールにたどり着いた映画というのは初耳だ。それでは、粛々と判決を申し渡す。(長い間)レッドカードで一発退場!!パチパチパチパチ。。。 ◆解除◆
 
英語のタイトルはThe Goalie's Anxiety At The Penalty Kick.つまり、『ペナルティキックにおけるゴールキーパーの不安』だ。このタイトルだとすごく分かりやすい映画の感じがするだろ。万一いたいけなサッカー大好き少年が『少林サッカー』のようなサッカーものと勘違いしてDVDを買い求め、トラウマとなるような精神的ショックを受けてはいかんと、邦題では前半部分をバサッと端折って、哲学的不安話っぽく聞こえる文学チックなタイトルとすることで、そのような誤買を防止しているのかしらん?英語でゴールキーパーのことをGoalieということを憶えたことだけが唯一の収穫だったな。この戯れ文を読んで、この映画を観てみようと思った人、手を挙げて!(は~い!)そこの君ィ、いい根性してるじゃないか。。。 
 
ネットで調べて分かったことだが、この映画はペーター・ハントケとかいう、「もういいからほっとけ」みたいな名前の作家の前衛小説を映像化したらしい。ワケが分からない小説を原作にして、分かりやすい映画になるはずがない。今のところ、どっちもどっちもだが、ヴィム・ヴェンダースジム・ジャームッシュのどっちが淡々狸かという難解ホークス映画の目くそ鼻くそ対決いうのを、そのうちやってみようかしらん。。。
 
ゴールキーパーの不安 The Goalie's Anxiety At The Penalty Kick (1972)西ドイツ
出演:アルトゥル・ブラウス カイ・フィッシャー エリカ・プルハール