『ダウン・バイ・ロー』は、「いいかげんにせんかぁ」というくらい、監督のご都合主義が目立った

ストレンジャー・ザン・パラダイス』に出ていたジョン・ルーリーが、間抜けな女衒の役でまた出ている。よほど監督のお気に入りなんだろう。ま、あんなに容貌魁偉な役者は、アメリカ中探してもそうはいないだろ。それに『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニーニも出ていた。映画を観る際に、あまり事前情報を仕入れずに観てしまうものだから、まさかこの映画にロベルト・ベニーニが出ているとは夢にも思わなかった。
 
たぶんロベルト・ベニーニは、イタリアの欣ちゃんみたいな喜劇役者で、ドメスティックには結構有名だが、『ライフ・イズ・ビューティフル』で監督デビューするまでは、イタリア国内のテレビか劇場でコメディ役者をやってたとばかり思いこんでいた。そいつが30過ぎの頃にアメリカまで出っ張って来て、こんな映画に出ていたとは露知らず、縁は異なもの味なもの。ここで逢うたが百年目。ちょっとネットで調べて見たら・・・。
 
1952年にイタリア中部のトスカーナの貧しい百姓の子どもとして生まれた。ふむふむ。何となく納得。大変な貧乏で学校に通えず、サーカス小屋でパシリなどをやった後、ローマで舞台役者になった。このあたりは北野監督に似てなくもない。あっちはストリップ小屋だが。
 
70年代から喜劇俳優としてテレビや映画に出演し、フェデリコ・フェリーニとも付き合うくらいのそこそこメジャーなコメディアンになっていたらしい。しかも、この映画にも出ていたニコレッタ・ブラスキが嫁さんで、どの映画でも相手役は決まってニコレッタらしい。せっかく何でも好きなもん食えるのに、わざわざ弁当を持って食堂へ行くような気もするが・・・。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆それにしても、この映画も「いいかげんにせんかぁ」というくらい監督のご都合主義が目立った。ロベルト・ベニーニは、独特のすり寄り術を発揮して(この人、いつでもどこでも誰にでもゴマすっておこうって感じだ)、同房になったふたりの囚人にちゃっかり取り込み、最後は一緒に脱獄までやってしまう。
 
しかし、あの脱獄シーンは随分あっさり味だった。まんまと脱獄したものの、周囲はワニの棲む沼地だ。這々の体でたどり着いた小屋に、運よくマッチとろうそくがあるというのも、かなりご都合感が強いが、まぁ許す。その後の逃避行で、ボートを手に入れるのも、ウサギを捕まえてくるのも、いいかげんにせぇだが、最後の場面はいくらなんでも、承諾しかねる。
 
ルイジアナ州のど田舎の、町からかなり離れた一軒家に、イタリア人、しかも、まだ若い独身の女が、そんなに都合よく住んでいるはずがない。こういう映画のファンというか監督の信奉者は、「固いこと言うんじゃねぇって。このクールな雰囲気がいいんじゃ」と宣わく。確かに、ミュージシャンのプロモーションムービーには、この手の映画の模倣が結構多いように思う。しかし、こんなお気楽設定がオッケイだったら、シナリオなんて、何でもありのびっくり箱ではないのか・・・。◆解除◆
 
この映画は、前半部分、特に刑務所の中での掛け合いシーンが結構おかしかった。しかし、これはロベルト・ベニーニの手柄で、監督の手柄ではない。ご贔屓のトム・ウェイツの流れDJも結構いけてた。このにいちゃんもミュージシャンだが、この手の映画の場合、プロの役者より素人がいい雰囲気を出すようだ。キャラクター勝負というやつか。日本でも宇崎竜童や内田裕也のように、ややマイナーな映画にはミュージシャンがよく出ている。そう言えば、沢田健二も元ミュージシャンだった。日本にまともな映画俳優が少ないことも問題だ。
 
演技派俳優といって、すぐに名前と顔が合致するのは、役所広司渡辺謙西田敏行竹中直人北野武香川照之くらいか。そもそも映画スターと呼べるのは、故高倉健、故菅原文太あたりで終わったのかも・・・。
 
確かに、ハリウッドものとは違ったマイナーな映画が、一部で高く評価されるのは分からないでもないが、ここまでのジム・ジャームッシュは、私に言わせれば、何が言いたい歯が痛い映画だった。次作の『ナイト・オン・ザ・プラネット』に期待しよう。何しろDVDボックスを買ってしまったのだから。
 
英語でdown by the bowというと、舳先を下にして船が前のめりになっているのを表現してるそうだ。the long arm of the lawというのは、警察の捜査網のことらしい。DOWN BY LAWは、『法の網の下をくぐって』くらいの感じか?あまりピンと来ないが・・・。乗っていたボートが沈没するシーンがあったから、なんとなくその辺りにひっかけてあるのかも・・・?
 
ダウン・バイ・ロー DOWN BY LAW (1986)アメリカ