『フィッシャー・キング』は、テリー・ギリアムにしては、わりとまともだった。

こういうキリスト教の伝説とかに基づく映画は、異教徒にとっては根本のところがよく分からないのだが、ま、悲惨な出来事によるふたりの主人公の精神障害(ひとりは現実逃避&幻視症、ひとりは対人恐怖症か)からの復活と癒しの映画なんだろう。もうひとり、超不器用な雑誌社のOLも神経症気味だった。まともなのはレンタルビデオショップの女主人だけか・・・。
 
映画の背景はニューヨークだが、大人のおとぎ話のようなファンタジーものには、ニューヨークがよく似合う。これがパリやロンドンでは、こうはいかないだろう。大阪だったら、吉本新喜劇になってしまうだろう。「ニューヨークは、アメリカではない」と言ったアメリカ人の知り合い(と言っても、1回会っただけだが)がいたが、アメリカ全土はもちろん、世界中から流れてついた漂流物のような連中やら、やっとこさでたどり着いた巡礼のような連中が多勢いるから、浮世離れした話の舞台にはぴったりなんだろう。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ 突然ミュージカルになったりしたら、いい加減にしろだが、この映画のグランドセントラル・ステーションのダンスシーンのような意外性は大歓迎だ。監督のご都合主義で、「そんなバカな」なシーンを見せられると鼻白むが、グランドセントラル・ステーションが、何の前触れもなく巨大なダンスホールになり、また、夢から覚めたように元の駅に戻るという、このシーンは、ファンタジー映画ならではの楽しさだった。
 
テリー・ギリアムは『12モンキーズ』のキレタ演出は気に入っているのだが、『未来世紀ブラジル』は後味が悪かったし、『ラスベガスをやっつけろ』のはちゃめちゃさ加減は、生理的に受けつけなかった。相当な曲者なんだが、この映画では、さほどエキセントリックな演出はしていない。前半のロビン・ウィリアムズ(合掌)が住んでいるボイラー室のシーン辺りまでは、なんの映画かよく分からない感じだったが、最後はわりとまともな映画(フルチンがまともかどうかは別にして)になっていた。◆解除◆ 
 
そう言えば、ロビン・ウィリアムズうつ病だったらしく、ドラッグとアルコールに溺れて、最後は自死してしまったのだが、天才的喜劇俳優の私生活が、あんなにも悲劇的だったなんて・・・合掌。
 
昔から大柄な女性が嫌いではないというのは、『甘い生活』でも書いたが、この映画のレンタルビデオショップの女主人も、どちらかと言うと好みのタイプだったりする。「神は人間を自分に似せて作ったのではなくて、悪魔に似せて作った。ただし子供を産む女は神の一部だから、女は悪魔的な男に惹かれる。聖人と呼ばれるような男は、ベッドでは退屈だ」なんて宣うが、どちらかというと、大柄な小悪魔といった感じだ。
 
なんとこの映画にも、ご贔屓のトム・ウェイツがおもらいさん役で出演していた。ちょい役とはいうものの、この親爺、結構目立っていた。
 
フィッシャー・キング (1991)アメリカ The Fisher King 
出演:ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジズ 、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール