『チョコレート』は、ビターなだけじゃなく、ブラック&ホワイトのミックスチョコだった。

何しろ邦題が『チョコレート』だ。なんの予備知識もない純な私は、スイートなラブストーリーだろうと思っていた。ところが、どっこい、かなりビターなチョコだった。ビターなだけじゃなく、ブラック&ホワイトのミックスチョコだった。
 
これはまあ、ハル・ベリーの体当たり的演技が見ものの映画だ。ハル・ベリーは、この映画で2002年の第74回アカデミー賞主演女優賞を貰った。さらに、その後アカデミー賞ではなくて、最もしょうももない映画に贈られるラジー賞の最低主演女優賞も貰ったりしていたが、この映画、主演女優賞をもらうほどの名演技かどうかは措いておいて、この映画で激しい交情シーンを演じて、ハルちゃんからハルねぇさんになった。プロフィールを見ると、1968年生まれだから、この映画の製作当期で、もう30過ぎか。確かに立派な大人の女だな。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ハルねぇさんと看守の親爺が出会うシーンは、ご都合主義とまでは言わないにしても、万に一つの可能性だ。その後の展開は、ある種ラブストーリー風に話が進んでいって、最後はちょっと尻切れトンボだったが、これってハッピーエンド?
 
女の方は旦那も息子も死んでしまって一人ものに戻っているし、男の方も、嫁さんとは死に別れ、息子は自殺してしまい、爺さんは特養に放り込んだしで、ふたりとも足手まといはないものの、前途は相当多難なように思われる。 
 
この看守一家の息子が、親父にピストルを向けながら「Do you hate me?」と聞くところで、この話、一体どこへ行くの?って思っていたら、突然ピストルで自分の心臓をぶち抜いて自殺するではないか。何をするんだ?と座り直してしまった。あのシーンの唐突さは、この映画の演出で特筆すべき秀逸さだった。久しぶりに画面に釘付けになった。◆解除◆
 
ハルちゃんの濡れ場は激しいけれど、別に変態プレーするわけではないから、大したことはない。見ていてそんなに恥ずかしくはなかった。しかし、他人の閨房を覗き見しているような感じではある。一方、冒頭の看守ジュニアと娼婦とのシーンは度肝を抜かれた。見ていて赤面してしまった。あの役をやった女優さんも、仕事とはいえ、恥ずかしかったのじゃなかろうか。それにしても、あんな即物的なことでは、情緒も何もあったもんじゃない。
 
この映画は、死刑制度と死刑囚の家族の話と人種差別の話がベースになっているが、その上に、三代にわたる刑務所の看守親子の確執、ストレスから来る子供の過食、セックスと愛など、まぁ、問題提起てんこ盛りの感があった。 
 
原題の『Monster's Ball』は、『怪物の宴』とでも訳すのかな。死刑執行前夜に死刑囚に与えられる最後の晩餐のことらしいが、こっちのタイトルの方が意味深でよいと思うけれど、営業的には『チョコレート』の方が、客がラブロマンスと勘違いして映画館に入るのだろう。いつも思うが、ホント詐欺みたいな話だ。
 
つきあい始めてあまり時間の経っていないカップルが、デートでこの映画見たら、かなり気まずいんじゃないだろうか。
 
チョコレート(2001)アメリカ Monster's Ball 
監督:マーク・フォスター