『ラジオ・デイズ』で、日本人が懐かしいなぁと思うのは、ちょっと変かも。

ウディ・アレンは、いかにもニューヨーカーらしい小洒落たコメディ映画をいくつも撮っているが、1935年生まれだから、もう80前の爺さんだ。1965年製作の『何かいいことないか子猫ちゃん』とか『ボギー!俺も男だ』などの初期の作品以来、随分ご無沙汰だった。以前はレンタルビデオ店にあまりビデオが並ばなかったことが原因だろう。 
 
この映画も1987年製作だから、もう28年前の作品だ。TVでよくある大家族もののドキュメンタリーのように、少年の目を通して描いた戦前のニューヨークのユダヤ人家族の日常とラジオ・スターを夢見るナイトクラブのタバコ売り女のサクセス(?)ストーリーの二つのエピソードを交互に綴っていく「スライス・オブ・ニューヨーカーズ・ライフ・イン・1940’s」といったところだ。 
 
戦前のアメリカン・ポピュラーソングのオンパレだが、如何せん私の世代では、ほとんど知らない歌ばかりだった。セピアがかった画面の色調や服装、車、町並みなどが、ノスタルジックな雰囲気をうまく醸し出しているが、我々日本人が、懐かしいなぁと思うのは、ちょっと変かもしれない。 
 
オーソン・ウェルズの有名なラジオ番組「火星人襲来」によるパニック騒ぎのエピソードなども交え、ニューヨークの庶民の暮らしぶりがのほほんとしたタッチで描かれている。おきまりの少年のイタ・セクスアリス話もあるが、さらっと流してある。日米開戦の臨時ニュースを読むシーンが出てきたが、日本および日本人に気を使ったのか、"JAP”じゃなくて"JAPANESE”と言っていた。
 
アメリカの中でも、ニューヨークは特別なんだろうと思うけれど、新年を迎えるパーティに着飾った男女がナイトクラブに集まり、シャンペンで盛り上がるなどというのも、戦中の日本では、ちょっと考えられない。
 
この映画で描かれている、戦前の庶民レベルのニューヨーカーの暮らしぶりを観ても、彼我の物質的生活レベルの差に愕然とするが、私の幼少のみぎりの昭和20年代後半でも、我が国では、TVがまだそんなに普及していなかったから、結構ラジオを聴いていたような気がする。が、何を聴いていたのかと聞かれても、何しろこちらも幼かったので、全く記憶にない。この年齢での出来事、しかも、日常生活の記憶がしっかりあるというのが、地頭のよさの証拠ではあるのだが・・・。たぶん三橋美智也とか春日八郎とか美空ひばりとかの歌謡曲とか、広沢虎三とかの浪花節だったのだろう。 
 
洋楽に目覚めたのは、中1のときだった。中学に入って、英語を習って、初めて外国の英語の歌にも歌詞がちゃんとあることに気づいた。それまでは、日本語に吹き替えたカバーバージョンは、てっきり日本の歌だと思っていたくらいだから、音楽に関しては奥手だった。しかし、世の中に、こんなにカッコいい音楽があるんだと、心の臓をぎゅっと鷲掴みされた感じで、それ以来、演歌や歌謡曲とは無縁の人生を送ってきた。 
 
さて、こういう映画では、事件らしい事件はなにも起こらず、エンディングもなんとなく「もうそろそろおしまいですよ」という感じで終わるのだが、それはそれで、いいんじゃないかと思ったりする、今日この頃だ。
 
ラジオ・デイズ (1987)アメリカ Radio Days