『クレイジー・イン・アラバマ』は、二つの狂気が同時進行していた。

マレーナ』のませたボウズは下半身妄想性ストーカー野郎だったが、今回のピージョー少年は、13才にして社会正義に目覚めた男子中学生だった。どちらかというとこちらの少年の方が好きだな。
 
この映画、ふたつの狂気が同時進行してるのだが、ひとつは、社会全体の狂気で、アラバマ州の片田舎で起きたアフリカ系アメリカ人少年の死に端を発した公民権運動の盛り上がり話で、もうひとつは、個人的な狂気で、ピージョー少年の叔母さんにあたるケバいルシールの亭主殺し、女優誕生ロードムービーだ。
 
1960年代の中頃、ディープサウスのアラバマ州で、人種差別反対を表明するのは、近頃の性的カミングアウト以上に、勇気のいることだったろう。ところが、このピージョー少年、力みも、迷いもなく、自然体でアフリカ系アメリカ人少年の味方になるところがエラい。ピージョーの兄貴は、いわゆる一般学生で(といっても中学生だが)最初は腰が引けていた。
 
アメリカの南部にロケに行ったことがあるという知り合いの話では、今から30年前には、日本人がホテルのプールに飛び込むと、それまで泳いでた老若男女が、一斉にプールから上がってしまうということがあったらしい。この映画の時代に、アフリカ系アメリカ人少年が、「公共のプールだから俺たちも泳がせろ」と主張したら、そりゃあ、大変な騒ぎになっただろう。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆一方、そのころ叔母のルーシールは、殺した亭主の生首を帽子ケースに入れて、一路ハリウッドを目指し驀進中だった。 ◆解除◆ほとんどどたばた喜劇風なんだが、真っ赤に塗ったタラコ唇が印象的なルシール役のメラニー・グリフィスの、はちゃめちゃ道中が結構笑える。監督のアントニオ・バンデラスは、スペイン生まれの役者だが、監督第1作で、こんな映画を撮るのだから、大したもんだ。メラニー・グリフィスは嫁さんだから、演技指導はやりやすかたっただろうが・・・。
 
さて、ルーシールが、ハリウッドにたどり着いて、トントン拍子に事が運んで、TVに出演することが決まり、その番組というのが、懐かしや『奥様は魔女』だった。1964年からアメリカで(日本では1966年から)放映されていたらしいが、あの当時よく見ていた。
 
サマンサ役のエリザベス・モンゴメリーは、ホントにチャーミングだった。ダーリンはシリーズの後半で交代したが、初代のディック・ヨークの方がよかった。タバサは双子の子役が交代で出演していたというのは、今回ネットで調べて初めて知った。エンドラ役のアグネス・ムーアヘッドが、当時密かなお気に入りだった。いけずだけれど、ゴージャスなおばさんだった。吹き替えは誰がやっていたのだろう?
 
ところが、このアグネス・ムーアヘッドは、1974年に亡くなっていた。初代ダーリンは1992年に他界、エリザベス・モンゴメリーも1996年に、みんな鬼籍に入ってしまっているのだった。そういえば、きーきー声の隣のおばさんもいたが・・・。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ ふたつの話が、最後にひとつにまとまって、めでたくジ・エンドというのは、近頃の映画では珍しい。ただ、このピージョー兄弟の母親が、出奔したルシールの子供の面倒を見ないといけないので、ふたりは葬儀屋のおじさんの家にやっかいになりに来たことになっていたが、ルシールは少年の母親のことをママと呼んでいたから、叔母さんじゃなくて、年の離れたお姉ちゃんなのかも・・・? ◆解除◆
 
クレイジー・イン・アラバマ (1999)アメリカ CRAZY IN ALABAMA 
出演:メラニー・グリフィス、ルーカス・ブラック