『バスキア』は、脇役陣が曲者揃いだった。

こういう夭折した芸術家に弱い私としては、この映画も出来はいまいちとしても、結構気に入った。ニューヨークの落書きアート出身のアーティストとしては、日本ではキース・ヘリングの方が有名かも知れないが、バスキアの方が、文学的というか、かなり社会的だ。カリブ系(両親がプエルトリカンらしい)アメリカ人のアイデンティティが、作品に反映されるからだろう。 
 
この映画、主人公のジェフリー・ライトもピュアな感じでよかったが、脇役陣が曲者揃いだった。まず、『レオン』のぶちキレ麻薬捜査官のゲイリー・オールドマン、なつかしや『イージーライダー』のデニス・ホッパー、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』で主人公の父親だったクリストファー・ウォーケン、『デッドマン』でイカれた殺し屋3人組のひとりだったマイケル・ウィンコット、『21グラム』のベニチオ・デル・トロ、さらに、ロック界の大御所、デイヴィッド・ボウイと、いずれも一筋縄ではいかない癖のある役者のオンパレだった。『ペーパームーン』の名子役だったテイタム・オニールも出ていたが、印象が薄かった。
 
逆に印象的だったのが、デイヴィッド・ボウイ。実物のアンディー・ウォーホール以上に(といっても本人に会ったことはないが)、如何にもアメリカのモダンアート界を牛耳っている大物アーティストの貫禄と同時に、やはり、ただの親爺とは違う本物のアーティストの繊細な雰囲気がよく出ていたと思う。
 
画集を持っているくらいだから、アンディー・ウォーホールが決して嫌いではない。20世紀を代表するモダンアートの巨匠であることは疑い得ないが、なんとなくうさんくさい感がしていたのだが、この映画で描かれたウォーホールは、純粋でシャイなアーティストだった。 
 
アートの世界で成功するというのは、大金が舞い込んでくるということで、これは、音楽でもマンガでも同じだろうが、大金を得ることで、失うものも多い。特に、バスキアは、本来絵を描くことにしか興味がなかったはずで、その主人公が、次第に友人や恋人を失っていく過程が切なかった。芸は身を助けるが、その芸に過剰な経済的価値がくっつくと、ロクなことがない。アメリカは、モダンアートが世界一高値で取引されている社会だけど、作品の価値を認めて購入するというより、投機的に買っている輩が多そうだ。 
 
大学時代の友人が、50歳過ぎでプロのアーティストとしてデビューしたのだが、以前その男に会ったときに、彼が言っていたが、日本ではモダンアートの評価が随分低いらしい。モダンアートを専門に扱う画商も少なく、アーティストも、作品を発表する場があまりないらしい。でも、最近六本木ヒルズにできた森美術館は、モダンアート専門のコレクションを展示するらしいから、少しは、日本でも評価されはじめたのだろうか。。。ただ、モダンアートの作品って、一般の家には、展示しにくいものも多い。石ころやら、くず鉄やらの塊を「作品です」と言われても、ちょっとなぁ。 
 
そういえば、10年ほど前にユニクロで、バスキアのイラストつきトレーナーというのを売っていた。バスキアの実際の絵(といっても複製のポスターだが)は、ネットで買うことが出来る。オフィスの壁が殺風景だったので、バスキアのポスターを貼っているのだが、何ともプリミティブというか、へたうまの画風だ。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ パンフレットを読んで分かったことだが、アーティストとして成功したバスキアが、高級レストランでワインを注文したときに、ソムリエが持ってきたのが、ブランドとしては超高級だけど、その年だけは不作だった73年ものの赤だった。なんという嫌味な真似をさらすんじゃ。こういう事実(?)を知らされると、無性に腹が立つ。◆解除◆この映画、ご贔屓のトム・ウェイツの歌が挿入歌として使われていた。 これはGood!
 
バスキア(1996)アメリカ BASQUIAT