『御冗談でショ 』は、冗談といえば、すべてが冗談みたいな話だった。

マルクスブラザースの映画デビュー4作目。次作の『我輩はカモである』の後にMGMに移籍し、ほぼ年一作のペースで、主演映画が作られ続けたが、傑作の呼び声が高いのは『我輩はカモである』と『オペラは踊る』とこの映画の3本だ。 
 
特に、後半のフットボールの試合は、はちゃめちゃを絵に描いたようなシーンの連続で、これまでの舞台喜劇を映画に焼き直したものとは、次元が異なっている。マルクスブラザースの映画では、グルーチョが大抵主役といってもいいが、この映画の後半のグルーチョは、しゃべくり芸だけでなく、体を張った芸も披露して見せた。いやはや、なんともいいかげんなオヤジだ。このグルーチョには、日本を代表するC調男、無責任男、スーダラ男の植木等も真っ青だ。と言っても、植木等は基本的に真面目な親爺だったが・・・。
 
ハーポとチコは、この映画では少し影が薄い。ゼッポに至っては、お笑いとは無縁の人生を選んで実際よかったと思う。喜劇役者は自己を客体化して笑いを生み出さければいけないから、二枚目ぶった男には向かないのだろう。バスター・キートンの場合は、極力感情を表情に出さないようにすることで、その端正なマスクのマイナス面をゼロにした。
 
さて、マルクスブラザースの大のファンだったらしい。ウディ・アレンの『世界中がアイラブユー(Everyone Says I Love You )』は、この映画の挿入歌をタイトルにしたものだが、映画のなかでは、4人がそれぞれに歌っている(ハーポはハープで演奏するだけだから歌わないが)。ネット上に歌詞の対訳があったので、興味のある方はどうぞ。まず、ザッポが歌う歌詞は、まぁまともだった。ところが、チコやグルーチョの歌う歌詞は、はちゃめちゃだ。 
 
♪大きな蚊が人を刺すときも、ハエ取り紙に捕まったハエも「アイラブユー」という♪♪って、何じゃこりゃ? ♪一組のウサギがいて、そいつらが深い仲になったら、そのうち何百万ものウサギが「アイラブユー」と言うのを聞くはめになるだろ♪♪って、そりゃそうだ。近頃の町中でいちゃついている若い衆も、ウサギ並みの繁殖力で、子供を産みまくってくれないと、少子化を食い止められないのだから。 
 
もうひとつの『私は反対 (I'm Against It!)』の方が、あらゆる権威を揶揄しまくるアナーキーな歌詞で気に入った。「反対の反対はやっぱり反対なんだ」という天の邪鬼にピッタリの歌だった。
 
この映画は1932年の制作だが、当時のアメリカン・フットボールの試合は、今のようなプロテクターを着けずに(ヘッドギアは被っていた)戦っていたらしいことが分かった。
 
しかし、『タイタンズを忘れない』でも、試合に勝つと一躍ヒーローだったが、こういう喜劇映画に、揶揄の対象としてカレッジ・フットボールが採り上げられてるくらいだから、当時も人気は相当ヒートアップしていたのだろう。まだアメリカにも、プロリーグはなかったので、戦前の東京六大学野球のような人気だったのかな。。。? 
 
ところで、この映画の邦題は何なんだ?どういう根拠で『御冗談でショ』とつけたのか?ま、冗談といえば、全てが冗談みたいな映画ではあるのだが・・・。それに『御冗談でショ』のショは何故カタカナなのか?「しょう」を「しょ」と縮めるのは、女性向けのカタログなどのキャッチコピーで見かけることがあるが、カタカナにしたのは見たことがない。
 
御冗談でショ (1932)アメリカ Horse Feather 
監督:ノーマン・Z・マクロード 
出演:グルーチョ・マルクス、チコ・マルクス、ハーポ・マルクス、ゼッポ・マルクス