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『おいしい生活』は、「マズイ生活」をバカバカしく描いた映画だった。

ウディ・アレンの喜劇映画では『ボギー!俺も男だ』を40年くらい前に観た記憶があるが、あれって、てっきりウディ・アレンが監督もしているものだと思っていたら、違っていた。ウディ・アレンの舞台劇の映画化だった。
 
この『おいしい生活』は、脚本、監督、主演を一人でこなしている。ストーリーには、何のひねりもない。ひねらせたら、いくらでもひねり倒すのだろうが、何故か、なんとなくハッピーな喜劇に留めている。これって、枯れたお笑い芸人の境地かい?
 
日本公開は2001年だが、有名な某百貨店のキャンペーン(1982年)のキャッチコピーを邦題に借用している。空疎な生活提案型キャンペーンで客を踊らすだけで売り上げが伸びたという、百貨店業界にとっては幸福な時代の文化遺産のようなコピーだ。あのキャンペーンで、ウディ・アレンを起用していたことが背景にあって、20年近く前のキャンペーンといっても、「おいしい生活」というコピーは、まだまだ脳裏に残っているだろうことが、この邦題をつけた理由だ。ま、原題の『Small Time Crooks 』は、「ケチな(三流の)泥棒たち」というような意味で、要するに、こそ泥のことだ。こんなタイトルでは、ヒットは望みにくいと映画会社が考えたんも致し方なしか・・・。 
 
元々あの生活提案キャンペーンのキャッチコピー自体が噴飯ものだった。当時、実際に某百貨店に行っても、おいしい生活は、どこにも売っていなかったらしい。客は広告と現実の商品との落差に、ガッカリして帰って行ったはずだ。確かにデパ地下では、おいしいものは売っていただろうが・・・。
 
そもそも、『おいしい生活』という言葉自体に品がない。「おいしい」の後に続く言葉としては、一般的には「話」だったり「仕事」だったりするんじゃないか?「おいしいご飯」もあるが、「おいしい話」には、裏があるし、「おいしい仕事」は、長続きしないと相場が決まっている。「おいしい生活」には、如何にも下卑た薄っぺらなニュアンスがある。こんなウソっぽい生活提案に乗る方が、アホちゃうのん?その後の百貨店不信、百貨店不振、消費不況の原点が、このコピーにあるんじゃなかろうか?
 
しかも、このタイトル、映画の本質をついているとも思えない。◆◆ネタバレ注意◆◆この映画で、間抜けな泥棒の主人公夫婦は、思わぬなりゆきで大金持ちになってしまった。まさにアメリカンドリームの体現者だ。しかし、夫(ウディ・アレン)は、金持ちA様の暮らしにうんざりしている。一方、嫁さん(トレーシー・ウルマン)は、上昇志向の赴くままにハイソの仲間入りをしてやろうと懸命になっている。この映画が笑い飛ばしている一番の部分は、この辺りだろう。つまり、「おいしい生活」ではなく「ちょっとマズイじゃないか生活」をバカバカしく描いたのがこの映画だ。
 
ただ、私自身は、主人公が感激してパクついていたLグルタミン酸ソーダがたっぷり入った、テイクアウトの中華料理やダブルチーズバーガーは願い下げだし、ペプシをがぶ飲みしたいとも思わないが、アメリカ人にとっては、あの食生活はそれなりに納得のいく「おいしい生活」なのかも知れない。日本でも、ラーメンや焼きそば、餃子といったB級グルメが、もてはやされているが・・・。◆解除◆
 
この映画、中年夫婦のめおと漫才風どたばた喜劇と称されているが、ウディ・アレンはほとんど老人。晩年の寅さんを彷彿とさせる、よぼよぼ感があった。しかし、97年に、再々々婚して子供も産まれたらしいから、決して枯れてなんかいないな、この爺さん。 
 
ブリジット・ジョーンズの日記』に出ていたニヤケ顔の役者が、同じようなニヤケた顔の美術商?の役で出ていた。このおにいさん、ニヤケ顔役者の第一人者になったのか?
 
監督作品の「マジック・イン・ムーンライト Magic in the Moonlight 」(2014年)とか、こちらは出演作品だが、「ジゴロ・イン・ニューヨーク Fading Gigolo」 (2014)とか、観ていない近作が結構ある。いつまでたっても、枯れる気などまったくないらしい。
 
おいしい生活(2000)アメリカ Small Time Crooks 
出演:ウディ・アレン、トレーシー・ウルマン、ヒュー・グラント、エレイン・メイ