『エル・トポ 』は、全体的にとんでもないが、部分的には、もっととんでもない。

とんでもない映画だ。全体的にとんでもないが、部分的には、もっととんでもない。小説なんかでは、作家の想像力のおもむくまま、とんでもない作品が時々出現することがないこともない。たとえば、『ドグラ・マグラ』なんかも、かなりキテル話だったように記憶しているが、この映画は、監督の頭の中のごちゃごちゃした妄想を実写で表現してしまったところがスゴイ。 
 
1969年の製作で、日本初公開は1987年だったようだ。この映画の存在自体をまったく知らなかった。ジョン・レノンやアンディ・ウォーホールが、えらく贔屓にしていたという話も今回知った。
 
映画自体は、2部構成みたいになっているが、前半と後半のつながりがいまいちよく分からなかった。主人公が20年後によみがえったということらしいが、かなりなご都合主義だ。
 
なんといっても、バイオレンスシーンがえげつない。これでもかというくらい血糊べっとりだ。ウサギも馬もカラスも皆殺しだ(もちろん人間もだが、さすがに人間はホントに殺してはいないだろ)。よくまぁ、動物愛護団体が文句を言って来なかったものだ。
 
きっと制作費はめちゃ少なかったのだろうが、ここまで映像としてのレベルを維持出来たのは監督の手柄だろう。何と言っても、生身の人間が一番強烈な映像だったから、しかもほとんど本物だから、セットが多少チャチでも、そんなに気にならなかったのだ。しかし、出演交渉はどうやったのだろうか?
 
冒頭のシーンで、◆◆ネタバレ注意◆◆『子連れ狼』みたいな子供連れのガンマンが馬に乗ってある村に現れ、(あの子はなんで素っ裸なんだ?あんなに強烈な日射しの下で、裸だったらサンバーンで大変なことになると、心配してしまった)その村の住人を皆殺しにしたワルの大佐の一団を成敗するのだが、この辺りから、なんだか正視できないようなバイオレンス・シーンの連続だった。これは勧善懲悪ものかと思っていたら、子供を修道士に押しつけて、この親爺、女と駆け落ちしてしまった。
 
そういえば、マカロニ・ウエスタンが流行ったのが1960年代後半で、『荒野の用心棒』から始まって『夕陽のガンマン』でブームに火がついた。マカロニ・ウエスタンの舞台といえば、たいていメキシコ国境に近い荒野の町で、非情のガンマンが主人公だった。この映画は、マカロニ・ウエスタンの影響をしっかり受けているように思う。と言うことは、黒沢西部劇の延長線上にあるってこと・・・?
 
次は、カンフーものによくある、修行で奥義を究めたマスターたちとの一騎打ち話だ。ここらがカルトムービーの真骨頂なんだろうが、宮本武蔵のウエスタン版ともいえる。しかし、この主人公、正々堂々と戦ったりはしない。卑怯な手を使いまくる。勝ったものが正義なんだ。このあたり『甲賀忍法帖』も少々入っている感じかな。ここで、もうひとりの女がでてきて、妙な三角関係になるのだが、もう話の筋書くのはやめておこう。
 
後半は、前半とうって変わって、ガンマンの面影はどこにもない。青の洞門話+ある種の純愛ものだ。主人公はすっかり毒気が抜けてしまって、大道芸までやりだす始末だ。◆解除◆この辺りは、フェリーニが入ってる。さらに、悪趣味も趣味のうちかも知らないが、この監督、とことんエログロ路線で突っ走る。この辺でもう辟易としてきた。ところで、あの目玉みたいなマークは一体何だったの?
 
しかし、まぁ、この映画、好き嫌いがハッキリ分かれる。こういう映画を大好きだという御仁も、ちょっとお友達にはなりにくいなぁ。
 
エル・トポ (1969)メキシコ EL TOPO 
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ロバート・ジョン、マーラ・ロレンツォ、 ブロンティス・ホドロフスキー