『オール・アバウト・マイ・マザー』は、うまく話が煮詰まったというべき映画だった。

如何にも女性映画だった。『テルマ&ルイーズ』は、女ふたりが主役、『めぐりあう時間たち』は、女3人が主役の映画だったが、この映画には、息子役のおにいさん(すぐに死んでしまう)とボケがきている親父さんと赤ん坊くらいしか、男は出てこない。ま、オカマは出てくるが・・・。
 
ところで、◆◆ネタバレ注意◆◆主人公のマヌエラは、臓器移植コーディネーターなんだが、そんな重要な仕事をおっぽり出してどこに行く気だ?と画面につっこんでしまった。いくら最愛の息子が交通事故で急死して、脳死状態でその子の臓器を提供してくれと言われる側になってしまって、人生の無常を感じたといっても、息子の父親(これがまたややこしいのだが、この男は豊胸手術までしてるが、実は両刀使いなんだ。いいかげんにしろ)に息子の死を教えるために、わざわざ仕事を辞めて、いや、辞めさせられたのかも知れないが、その親爺の居場所を捜す旅にでるだろうか?この男(といっても女の格好をしているが)、マヌエラにとっては、とっくの昔に過去の男だろう。なにしろ18年前に、赤ん坊を孕んだまま、そいつの前から姿を消して、ひとりで産んで、ひとりで育ててきたのだから・・・。
 
何故わざわざバルセロナくんだりまで捜しに来たんだ?息子の望みが父親のことをもっと知りたいということだったのかも知れないが、息子は死んでしまったのだから、今更どうしようもないじゃないか?女は男と違って、一旦心の中から放り出してしまった男は、もう過去の存在でしかないから、そんな奴のことをいつまでも引きずらないはずだ。マヌエラは、もっと前向きに生きるタイプと違うのか?◆解除◆
 
しかし、まぁ、バルセロナに来ないことには話が始まらないから、ここは目をつぶっておこう。それで、最初に見つけたのが、昔なじみのオカマのアグラードだった。このおにいさん(おねえさん?)は、なかなかの人物だった。ある種、向こう岸に渡った者の強みというか、人生すべからくお見通しだ。ま、一皮むいたら、誰しも同じというのを実生活でイヤというくらい体験しているのだろう。この役者は、日本人でいったら、カルーセル麻紀みたいなホンマものなんだろうか。 おっと、アグラード役のアントニア・サン・ファンは、歴とした女優だった。女優がオカマの役をするというのも、本人にしたら、複雑なものがあっただろう。 
 
それと、ソーシャルワーカーの修道女のおねえさんが、困ったちゃんだった。この子の身の上に起こった不幸な出来事の発端が、いまいち把握できなかった。いきさつの説明、きちんとしてたっけ?それに、ほとんど行きずりに等しいマヌエラの部屋に転がり込まなくても、小学校以来の親友とかが、バルセロナに住んでいたりするのと違うだろうか?
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ ここから、話は佳境に入るが、『イヴの総て』の設定をうまく借りた(パクリではない)代役話やら、オカマのアグラードの名スピーチ、犬との別れ、ウイルスにまつわる奇跡と、ずんずんずんと話が進んでいった。息を詰めて画面を見詰めていたワケではないが、うまく話が煮詰まったという感じだ。 ◆解除◆
 
マヌエラ役のセシリア・ロスは、『グリーン・デスティニー』のミシェル・ヨーと同じで、倍賞美津子似だった。顔というより雰囲気がどことなく似ている。日本でこの映画をリメイクしたら、大物舞台女優役は浅丘ルリ子で、修道女役は高梨臨かな。あのおかま役ができる俳優は、ちょっと思いつかない。
 
女は誰でも少しはレズッ気があるって言っていたが、この映画を観ていると、なんとなく分かるような気がした。 しかし、産まれた子供に、別れた父親(言ってもおっぱいあるし、女装しているし)と同じ名前をつけたということは、未練があったいうことかな。女は分からん。
 
オール・アバウト・マイ・マザー(1999)スペイン All About My Mother 
出演:セシリア・ロス、マリサ・パレデス、ぺネロぺ・クルス、アントニア・サン・ファン