『グッバイガール』は、ニューヨークでしか作れない映画だね。

この映画、ずっと昔に観た記憶があったのだが、今回観直してみると、やっぱりよく出来ていた。俳優の演技もいいのだが、ニール・サイモンの脚本が素晴らしい。きっと英語の脚本は、字幕以上によく出来ているのだろう。
 
字幕だと、固有名詞はほとんど一般名詞に変えてある場合がほとんどだ。確かに、ニューヨークの固有の場所やら、アメリカの商品名書いてあっても、日本人にはチンプンカンプンの場合も多いかも知れない。しかし、この映画の場合は、翻訳家ももう少し気にしてくれてもよかったんじゃないか?
 
リチャード・ドレイファスは、この映画でアカデミー賞主演男優賞を貰っているのだが、監督賞、脚本賞、作品賞は、ウディ・アレンの『アニーホール』で、その主役のダイアン・キートンが主演女優賞だった。さらに、フレッド・ジンネマン監督の『ジュリア』のジェイソン・ロバーズが助演男優賞で、助演女優賞は、同作品のヴァネッサ・レッドグレーヴだった。この3作品が三つどもえの戦いだったのだが、他にもこの年は、同じハーバート・ロス監督の『愛と喝采の日々』が、主演女優賞(アン・バンクロフトシャーリー・マクレーンのダブルノミネートや)、助演男優賞(ミハイル・バリシニコフ)、助演女優賞(レスリー・ブラウン)、監督賞(ハーバート・ロス)にノミネートされていたが、こっちは、ひとつも賞をとれなかった。監督賞には、ジョージ・ルーカススター・ウォーズ』、スティーブン・スピルバーグ未知との遭遇』もノミネートされていた。いやはや、アメリカ映画史に残る作品が目白押しの当たり年だった。
 
しかし、この当時、女性映画には目もくれなかった。なにしろ、1970年代半ばから80年代半ばまでは、映画離れが最も激しかった空白の10年だ。レンタルビデオ屋がまだなかったから、映画館に行かない限り、新作は観られない。旧作は二番館や名画座で観るか、テレビの洋画劇場に出てくるのを待って、吹き替え版を観るしか手がない。ところが、当時は公私ともに忙しかったので、洋画劇場をやっている時間帯には、家に帰っていなかった。
 
日曜洋画劇場は、日曜だから仕事は休みなんだが、シーズン中は、ほとんど釣りに行っていた。子供が小学生くらいになると、もっぱらルーカス&スピルバーグ、あるいは、ドラえもんジブリだったな。今なら、パソコンでレンタルDVDが観られるから、こっそり楽しむことも出来るのだが、その当時は、テレビは茶の間にで~んと鎮座ましましていたから、一人でレンタルビデオを観るなんてことは許されなかった。
 
というワケで、『愛と喝采の日々』も『ジュリア』も『アニー・ホール』も観ていなかった。どんな映画なのか、濡れ場はあるのか、感動ものか、それほどでもないのか、これから順番に観ようと思っている。ま、この歳になったら、女性映画も、ラブストーリーも、メロドラマも、悪くはないだろう。
 
で、この映画なんだが、かわいらしい話だった。マーシャ・メイソンがやっている元ダンサーも、リチャード・ドレイファスがやっている俳優も、如何にもニューヨークならではの連中だ。こりゃ、ニューヨークでしか作れない映画だね。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆大雨の夜更けに、男運の悪い子連れの元ダンサーの母娘が住んでいるアパートに、ズタ袋を担いで乗り込んできた新劇俳優が、自分にはこの部屋に住む権利があると言って、無理矢理ひと部屋を空けさせて同居するという出だしも、ニューヨークだったら、有りだろう思わせるところからして、よくできた脚本だった。
 
 台詞がめちゃ早口だから、とても私ごときの英語耳では聞きとれないのだが、それでも、字幕にないことをいっぱい言っている感じだった。ただ、ドレイファスが、東洋の仏教に凝っているという設定で、毎朝座禅を組んで、念仏もどきを唸るのだが、あの念仏は、せめて般若心経くらい流暢に唱えておかないとダメなんじゃない。南無~、南無~しか言ってなかった。
 
すったもんだの末に、ハッピーエンドになるというのも、この場合はマストだろう。今度の男もさっさとグッドバイしたら、もう立ち直られないだろう。ハッキリ言って、この女の経済力はあまりなさそうだった。スバルの新車発表会の説明員のバイトをやったりしていたから、一応ナレーションの勉強はしているみたいだが、あんなにおいしい仕事は、そうそうないだろう。どちらかといえば、ドレイファスがバイトで呼び込みをやっていた、トップレスバーの踊り子くらいが納まりどころと違うか。◆解除◆
 
ドレイファスが、オカマのリチャード3世の役をする劇中劇が、また見物だった。アメリカの役者は確かに芝居がうまい。ちょっとニヒルな子役の女の子もうまいものだった。母親など、ほとんど実在の人物という感じだった。あの役は、若い頃の松坂慶子だったら出来たのじゃないかと思うけれど、ちょっとフェロモン出過ぎかも・・・。
 
グッバイガール The Goodbye Girl (1977) アメリカ  
出演:リチャード・ドレイファス、マーシャ・メイソン、クイン・カミングス