『世界中がアイ・ラヴ・ユー 』は、なにより話が重くないのがいいのかもしれない。

思いきり絵空事なミュージカルコメディー映画だった。なにしろ連れ子の娘がひとりいる女(ゴールディ・ホーン)と、同じく、男女ひとりずつの連れ子がいる男(ウディ・アレン)が再婚して、ふたりの娘をもうけ、さらに、嫁さんの元の旦那と今の旦那は友だちで、連れ子の娘は前の父親とも頻繁に行き来しているという、ヤヤコしい家庭環境だ。
 
普通だったら。複雑な継母子関係に小さな心が傷ついて、問題行動を起こす娘の話だったりしそうだけれど、題名を見ても分かるように、そんな暗いお話ではない。ま、こういう映画は、リアリズムを追求しているワケではないから、ストーリーもかなりいい加減だった。
 
『レオン』では、こまっしゃくれた美少女マチルダを、『コールドマウンテン』では、薄幸の戦争未亡人役をやっていたナタりー・ポートマンが、ちょい役で出ていた。しかし、この映画は、ドリュー・バリモアゴールディ・ホーンジュリア・ロバーツナターシャ・リオンの4人の女のイタ・セクスアリスを適当に描いた映画だったから、ナタリーちゃんみたいなガキはお呼びではない。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ 何といっても笑えるのは、ドリュー・バリモアだ。なんとオセロの白い方にそっくりだった。しかも、この役は松嶋並みの天然娘だった。婚約指輪は飲み込むし、ムショからでてきたばっかしのロバート・デニーロにちょい似のイタ公(?)のアンちゃんに、スケコマシされて婚約者を袖にするし、デートだと思っていたら、銀行強盗につきあわされるし・・・。しかし、まあ題名を見ても分かるように、悲惨な結末になるワケはない。
 
それから、ゴールディ・ホーンウディ・アレンが、ワイヤー・アクションで、ダンスを踊るセーヌ河畔のシーンも。『マトリックス』なんかより、ロマンチックでずっとよかった。
 
3人目のジュリア・ロバーツは、『プリティ・ウーマン』より、『エリン・ブロコビッチ』の方がお気に入りなのだが、この映画では、なぜか旦那に愛想をつかしている人妻が、ウディ・アレンにナンパされて不倫する役なのだが、これも愁嘆場とか、修羅場は出てこなかった。しかし、まぁ、ジュリア・ロバーツは、ちょい出のゲストという感じだった。◆解除◆
 
ところで、この映画の原題「Everyone Says I Love You」は、ご贔屓のマルクス兄弟のまあまあ面白かった『御冗談でショ』の挿入歌なんだけれど、この映画でも、全員がグルーチョの扮装をしたクリスマスパーティーのシーンで、この歌を歌い踊っていた。ただ、この歌の和訳は『世界中がアイ・ラヴ・ユー』ではないだろう。強いて言えば、「どいつもこいつも(なにかといえば、すぐに)『好きゃねん』と言う」といったニュアンスだ。
 
歌のタイトル通り、この映画でも、どいつもこいつも「好きゃねん」と言いまくる。なかでも、4人目の連れ子の娘役のナターシャ・リオンのDJ(DJというのは、この娘のニックネームだ)は、何とも惚れやすい尻軽女で、行き当たりばったりに、いけ面にいちゃんに惚れた腫れたになるのだが、この娘の場合も、題名を見ても分かるように、深刻な事態にはならなかった。
 
何はともあれ、絵空事なシーンの連続の映画だった。しかし、ちょっと風邪気味のときなんかに観る映画としては、101分の短さだし、出演者が揃いも揃って、歌が下手なミュージカルだし、なにより、話が重たくないのが、いいかもしれない。
 
世界中がアイ・ラヴ・ユー (1996)アメリカ Everyone Says I Love You