『ギャング・オブ・ニューヨーク』は、ニューヨークの暗部というか恥部をさらけ出した映画だ。

ニューヨークの暗部というか恥部をさらけ出した映画だった。といっても140~150年前の話だから、アメリカも、ヨーロッパも、まだまだ市民社会が成熟していなくて、街のチンピラも、政治家も、新聞社も、資本家も、騎兵隊も、勝手気ままに、やりたい放題をしていた頃の話だ。
 
前回の『北野座頭市』と似たようなもので、大筋は、親父を殺された息子(レオナルド・ディカプリオ)の復讐劇とヤクザ同士の抗争を描いた娯楽映画なんだが、1976年にあの名作『タクシードライバー』を撮ったマーティン・スコセッシが監督したのだから、もう少しよく出来た映画かと思ったが、なんだか中途半端な感じで、期待はずれだった。
 
しかし、まぁ、最初の抗争シーンで、びっくりしてしまった。アメリカだったらドンパチだろうと思っていたら、この映画は飛び道具なしだった(ナイフは投げていたが)。日本のチャンバラと大きく異なるのは、武器が刀だけじゃなくて、打擲器(要するに棍棒だ)で殴り倒すところがえげつない。しかも、男だけではなく、女も殴り込みに参加しているのが凄い。やはりアメリカは男女平等の国だ。
 
主役のレオナルド・ディカプリオは、やっとアイドル系から脱皮したかな?ビミョーなところだ。あのつるんとした童顔はあんまり好きではなかったが、この映画では、無精ひげをはやしたり、キズだらけにしたりして、少しは汚れ役をしていた。それにしても、◆◆ネタバレ注意◆◆あんなにボコボコに頭突きされたのに、鼻の軟骨がぐちゃぐちゃになっていなかったのは何故?頬の火傷もケロイドにならずに、きれいに治っていた。よほど腕のいい整形医にかかったのだろうか・・・?◆解除◆
 
一方、一匹狼の女スリ役のキャメロン・ディアスは、はっきり言ってミスキャストだった。150年前の人という感じがしなかった。顔が現代的過ぎるのだろう。当時では、別嬪さんの部類に入らなかったんじゃないか?けっこう訳有りの幼少期を背負っている女にしては、人生の負の部分を表現する演技力が足らないな。
 
もうひとりの主要人物がブッチャーだ。アブドーラ・ザ・ブッチャーと違うよ、ビル・ザ・ブッチャー、つまりお肉屋さんのビルだ(こう訳すと、なんだか親切な肉屋の親爺さんみたいだ)。この役をやっていたダニエル・デイ・ルイスの印象を率直に言うと、ちょっと線が細い。もっとおどろおどろしい殺人マニアといった凄味が欲しかった。あまり狂気が感じられない。何となく思慮分別のある男みたいな描き方は、骨がらみにワルな男の感じが減殺されていた。勧善懲悪・娯楽映画では、ワルはどこまで行ってもワルなのだ。吉良上野介だって、地元では名君で通っているけれど、忠臣蔵の映画では、好かんタコにされている。
 
第75回アカデミー賞の10部門にノミネートされていたのに、ひとつも取れなかったというとほほな結果も、何となく分かる気がする。◆◆ネタバレ注意◆◆大体、ヤクザ映画で一番肝心の殴り込み(この映画の場合はお互い納得ずくだから出入りか)のシーンで、さぁ、派手な殺し合いが始まるという瞬間に、国家権力の横やり(というより、タイミングが悪かったのだ。たまたま、南北戦争の徴兵反対に端を発したらしい、ニューヨークの大暴動の鎮圧に海軍が出っ張って来たのだ)で砲撃されて、抗争自体が台無しにされてしまったら、当事者だけじゃなくて、観客も白ける。そりゃあ、いくらヤクザといっても、国家権力には歯が立たん。◆解除◆
 
この年のアカデミー賞にノミネートされていた映画は一通り観たが、作品賞としては、『戦場のピアニスト』がダントツで、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』、『シカゴ』、『めぐりあう時間たち』、『トーク・トゥ・ハー』、『アバウト・シュミット』、『ギャング・オブ・ニューヨーク』『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、『スパイダーマン』、『アダプテーション』、『ロード・トゥ・パーディション』の順かな・・・。
 
ニューヨークの大暴動を描いた部分が、映画の本筋と必然性のあるカタチでクロスオーバーしていなかったのが致命傷だ。映画のプロデューサーは、きっと歴史ものの超大作として、アカデミー賞の作品賞を狙っていたのだろう。そこで、『コールドマウンテン』みたいに、南北戦争を背景にしただけの映画だったらもの足りない。もうちょっと社会性が要るといって、アメリカ史の負の1ページとして、アメリカ人の間でも、あまり知られていなかったらしい、ニューヨーク大暴動のシーンをむりやり入れさせたのだな。しかし、元々エンターテイメント系のヤクザ映画なんだから、あまり欲ばらなかった方が、よかったんじゃないか。二兎を追う者一兎を得ず。・・・残念!
 
ギャング・オブ・ニューヨーク GANG OF NEW YORK(2002) 
アメリカ・ドイツ・イタリア・イギリス・オランダ