『トラフィック』は、タップダンスでご陽気にという終わり方もできんだろうから、ま、妥当な終わり方じゃないか。

結末を知ってしまったら、観る気にならないというタイプの映画ではない。こういう社会派ドラマは、安直にハッピーエンドにするワケにもイカンだろうし、かといって、あまり茫然自失となるような悲惨な終わり方も、すかっと爽やかに皆殺しにする終わり方も、タップダンスでご陽気にという終わり方もできんだろう。ま、妥当な終わり方じゃないか。ちょっと物足りないのは否めないが・・・。
 
3つの話が同時進行で進むのは、この頃の流行りっぽい編集の仕方だが、この監督(なんとカメラも自分で廻したらしい)は時間経過をぐちゃぐちゃにしていないから、混乱することは少ない。さらに、3つのシーンのそれぞれに、基調となる色のカラーフィルターをかましてあるから、今どの話やっているのか、すぐに分かる。
 
テーマはアメリカのドラッグ汚染問題だ。メキシコルートの麻薬の密輸入防止に立ち向かう捜査官とティファナの麻薬カルテルを壊滅させるDAEの企ての片棒を担がされるメキシコ人の地元警官と元最高裁判事で政府の麻薬取り締まりの最高責任者になる親爺の男3人とアメリカ側の麻薬密売組織の元締め男の嫁さんと取り締まり最高責任者の親爺の高校生の娘の女2人が主要人物だ。
 
他にも多勢登場人物がいるから、最初の内は、役所(やくどころ)やらそれぞれの抱えてる個人的な事情やらが呑み込みにくい。ま、半分過ぎくらいから顔なじみになって来るから、筋を追っかけるのは、比較的スムーズに出来るようになる。
 
この映画で最も熱演だったのは、一般的には、ドラッグ地獄にはまっていく馬鹿な高校生の娘だろうが、元締めの嫁さん役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズの決断と行動の方に、感心してしまった。
 
この女は、ヨーロッパ系アメリカ人なんだが、旦那はヒスパニック系アメリカ人みたいだ。これだけの器量で、ヒスパニック系の男の嫁になるには、それなりに深いワケがあるのだろう。一目会ったその日から恋に落ちたとは、到底思われない。が、この映画では、そこのところは端折ってあったから、詳しい事情は分からない。
 
妊娠中なんだが、ここから自分と家族のサバイバルのために、精力的に走り回る。それも非合法お構いなしの、なりふり構わない猛ダッシュだ。女は弱し、されど、母は強しという奴か・・・。しかし、強すぎる。『シカゴ』では、育ちの悪そうな、気の強そうなダンサーで、『ターミナル』では、行き遅れスッチーだったけれど、キャサリン・ゼタ=ジョーンズは、この手の汚れ役をやらせれば、ピカ一だ。
 
もうひとり、メキシコ人警官の役をやっていたベニチオ・デル・トロは、『バスキア』のときから、なんとなく印象に残ってたいたのだが、この前に観た『21g』の改心したムショ帰り男の役よりは、この映画の方が、格段によかった。颯爽としてるワケではないのだが、われわれ日本人が感情移入しやすい顔立ちといい、ぼそぼそとしたしゃべりといい、結構日本人女子には隠れファンが多そうだ。いわば、四さまの対極だ。
 
馬鹿な子ほどかわいいとはいうものの、あの娘はあんな無茶をやって、エイズをうつされていたら、もっと悲惨な事態になった。検査には行ったのだろうか?謹厳実直な親父役のマイケル・ダグラスは、『フォーリング・ダウン』のぶち切れぶりが鮮烈だったが、この映画では、ぐっとガマンの子だった。いやホント、親父はつらいよ。。。
 
大顰蹙ものの『ラスベガスをやっつけろ』の腹ボテの親爺が、ベニチオ・デル・トロだったとは、不覚にも分からなかった。なんという役者根性だ!ジョニーデップも禿げズラどころか、まんま禿げになっっていたが、ベニチオ・デル・トロの腹の出っ張り具合も半端じゃなかった。畏るべし。トロ鉄火。
 
トラフィック TRAFFIC(2000) アメリカ