『妹の恋人』は、ま、罪がなくてよかったんじゃないのか・・・。

とうとうジョニー・デップジュリアン・ムーアが共演してる映画にぶち当たってしまった。ふたりとも、そんなに贔屓も貶しもしていないつもりだったのだが、冷静に考えれば、ジョニー・デップは『ラスベガスをやっつけろ』の、はちゃめちゃジャンキーぶりに大ブーイングだったし、ジュリアン・ムーアは『ハンニバル』で、ジュディ・フォスターみたいなオーラがないといって、ケチをつけた記憶がある。ま、この映画では、別々にでてくるだけだから、共演といっても夫婦や恋人役ではない。
 
『妹の恋人』という邦題で、刷り込みされやすい先入観としては、薄倖の兄妹ものというか、テッキリ幼いときに両親が他界して、ふたりっきりになってしまった兄妹の、その兄貴というのが、今日はラスベガス、明日はシカゴと、アメリカ大陸を東に西に、旅から旅の渡り鳥のようなギャンブラー渡世の旅人で、気ままなその日暮らしを送っている。そんな兄貴を堅気の妹は、まるで恋人のように慕うていて、必死になって地道な暮らしのよさに目覚めさせようとするのだが、腐りきった性根を入れ直すことは、並大抵のことではできない。すったもんだの末、最後はちょっとした運命のいたずらで、ヤクザな兄貴が妹の恋人の警官を撃ち殺してしまうみたいなトラジェディーではなかろうかと思っていたのだが、どうも全然そうじゃなかった。そりゃあ、そうか・・・。
 
この映画の兄貴は、真面目一方の自動車修理工で、妹は売れない画家みたいなんだが、少々精神を病んでるみたいだ。その妹の恋人になるのがジョニー・デップで、いつものように鳩豆顔で出てきた。この男は、キートンチャップリンなんかの無声映画系のコメディが大好きで、それだけじゃなくて、チャップリンのパンのタップダンスやら、大道芸風パフォーマンスも器用にマネする。しかし、このにいさんも発達性識字障害というのがあるようだ。
 
ところで、ジュリアン・ムーアは、食堂のウエイトレス役なのだが、兄貴の方とちょいといい仲になりかけている。なかなか可愛いらしいストーリーで、登場人物もこの前の『ビッグ・リボウスキ』みたいな、人生をなめきっているような胡乱な奴はひとりも出て来ない。ただ、自動車修理工にしては、このおにいさん、いい家に住んでいた。両親が事故で死んで、保険金が入ったのかも知れないが、そんなことを気にする自分がイヤになる。他人の懐具合とか、景気のよさに、いちいち反応しても仕方がないとは思うのだが、ついつい下を見たり、上を見たりして、喜んだり、ころこんだりするのも、煩悩のなせるワザだ。
 
映画の話に戻ると、毎週仲間同士でポーカーをしに仲間の家に集まるのだが、チップの代わりに使いかけの石けんとか、シュノーケルとかを賭ける。賭けるものがなくなったので、なんとその家に居候してるジョニー・デップまで賭けられてしまった。負けた方が引き取って、面倒をみるというマイナスのチップだった。
 
この映画を観ていて気がついたのだが、この時期のジョニー・デップは、 KinKi Kidsのロン毛の方のおにいさんにちょっと似ていた。ジュリアン・ムーアは、オセロの白い方に横顔が結構似ていた。日本人のなかには、あらゆる民族の顔の特長を持った人がいるらしいが、そういうとそんな気がする。知り合いの女の子なんか、なんとジョン・レノンにそっくりだった。
 
ほのぼのした話だから、障害者とそれを取り巻く社会の壁みたいなシリアスな展開にはならない。壁は壁でも、宙づりの壁の方だった。ま、罪がなくて、よかった。
 
妹の恋人 BENNY & JOON(1993) アメリカ  
監督:ジェレマイア・S・チェチック