『シティ・オブ・ゴッド』は、あくまでドンパチシーンに特化していた。これもひとつの見識かも知れない。

ブラジル版『仁義なき戦い・悪ガキ編』というところか・・・。全編ドンパチばかり。それにしてもビックリ仰天。この映画は実話に基づいているらしい。リオデジャネイロのはずれに国が作ったスラム街「神の街」で、1960年代から70年代にかけて、貧困と不正と麻薬と銃と性欲とラテン文化の光と影をごちゃまぜにしてぶちまけたら、こんな悪ガキどもが出来てしまったという感じだ。
 
戦後のどさくさの時代には、日本でも浮浪児が、かっぱらいや恐喝などの犯罪を起こして、それをきっかけに悪名高い少年法が出来たらしいが、この当時の神の街では、そんな生やさしいものじゃない。ドンドンパチパチ、日常茶飯事的に殺しが横行している。
 
少しはまともなのは、報道カメラマン志望のブスカペ少年くらいだ。この子の目を通して、街を牛耳ったギャンググループの一方のボス、リトル・ゼの成り上がりと破滅を描いてある。映画は、まず3人の悪ガキが起こしたモーテル襲撃から始まって、その時に見張り役をさせられていた、10才くらいのリトル・ダイス(のちに妙なイニシエーションを受けてリトル・ゼと改名するのだが)とそいつのダチのベネとの無頼渡世がメインストリームになっている。
 
このリトル・ゼというガキは、ホンマモンの悪ガキで、殺人に対する心理的ブレーキがまったくきかないタイプだった。いくら、これは演技だと自分にいい聞かしていても、年端もいかない子供が嬉々として銃をぶっ放すシーンは直視できないものがあった。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆常に後から来る方がよりエスカレートするという歴史の真実が、この映画にもあって、殺しに良心の呵責をまったく感じないリトル・ゼ2世みたいなアンファン・テリブルが、後から後から、どんどん出てくる。なんとも衝撃的なのが、リトル・ゼが、捕まえたふたりの子供に「撃たれるのだったら、手と足のどちらを撃たれたい?」と究極の選択を迫り、手と答えた子供の足を撃ち抜き、しかも、別の子供にふたりのうちのどちらかを撃ち殺せという、最悪の究極の選択を迫るところだ。何ともイヤなものを見せられてしまった。◆解除◆ 
 
そんなちびっ子ギャング(というかわいらしいTV映画があったが・・・)も巻き込んで、対立するグループが街を二分して抗争を繰り広げるのだが、そこに銃の密売屋とか、悪徳警官とか、汚いまねをする大人がかかわって、最後の出入りのシーンまで、なだれ込んでいく。スピード感のあるカメラワークと凝った編集で、画面から目が離せないように作ってある。
 
この監督は、当時の神の街を忠実に再現しようとしたワケだはない。実状はもっとえげつない修羅場が一杯あったのだろう。この映画では、リンチやレイプのバイオレンスシーンは、極力少なくしてある。あくまでドンパチシーンに特化していた。これもひとつの見識かも知れない。
 
シティ・オブ・ゴッド CIDADE DE DEUS (2002) ブラジル  
出演:アレクサンドル・ロドリゲスレアンドロ・フィルミノ・ダ・オラ、セウ・ジョルジ、アリス・ブラガ