『アメリカン・ヒストリーX』は、エンドロールの間、黙祷していた。

この前の『シティ・オブ・ゴッド』も強烈だったが、これもキツイなぁ。ちょっと唸ってしまった。エンドロールの間も、黙祷していた。人種差別に真っ正面から取り組んだ映画というのは、エンディングが難しいなぁ。この映画も、映画会社とぶつかって、監督が編集を放り投げてしまったらしい。何となく尻切れトンボの印象があったのは、これが原因かも知れない。
 
主役のエドワード・ノートンは、あまりにも存在感がありすぎて、圧倒されてしまった。40年前に『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロを観たとき以来だ。こういうのを威嚇する肉体というのか・・・。エドワード・ノートンは『レッド・ドラゴン』や『ファイト・クラブ』にも出てたのだが、どちらの映画にも、もうひとり強烈な曲者役者が出ていたし、エドワード・ノートンの役は、少々脇役っぽかったので、それほど強烈な印象がなかったのだが、この映画では、バリバリ主役で、映画が始まった途端、えげつない首の骨折り殺人のシーンだ。そりゃあ、ビックリ仰天するよ。こっちはまだ心の準備ができてなかったのだから・・・。
 
警官の父親がアフリカ系アメリカ人に殺されたのをきっかけに、白人至上主義の極右組織ネオナチのメンバーになった兄弟が主人公なんだが、兄貴の方は、昔は優しいお兄ちゃんだったのだが、カラダを鍛えてマッチョになって、コワモテのタトゥを入れて、頭もまるめ、全身警戒色の歩く凶器と化してしまっている。
 
一方、弟はえらい美少年なのだが、丸坊主で、だぼだぼジーンズで、鼻ピアスだ。この弟、兄貴をヒーローとして崇めているのだが、兄さんがネオナチ組織から脱会すると言ったら、割と素直に言うこと聞いた。部屋中に飾ってあったナチスの旗やら、ヒットラーの写真やらも、さっさと剥がしてしまった。随分さっぱりしているんだなぁと思った。でも、まぁ、この年頃の子はそんなものかも知れない。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ この兄貴、立派な第1級殺人犯なんだが、相手が銃を持っていたので、正当防衛を認められたのか、3年の刑になった。ムショの中で、それは筆舌に尽くしがたい辛酸をなめるのだが、アメリカの刑務所というところは、相当キツイところだね。「ここでは、お前がニガーなんだ」とアフリカ系アメリカ人の囚人から言われていたが、確かに、娑婆の人種的力関係は、ムショの中では通用しないのだろう。
 
このアフリカ系の囚人仲間と次第に心を通わせていくシーンは結構ほのぼのしていた。この囚人仲間のおかげで、アフリカ系グループからのリンチに会わずに済んだのだが、出所するときに、この囚人仲間から「もうブラザーを殺すなよ」と念を押されていた。ところが、出所後、堅気の暮らしを始めようと思う間もなく、終末が訪れるというのは、あまりじゃないかと悲憤慷慨してしまった。もう少し出所後の悪戦苦闘のエピソードがあってもよかったんじゃないか・・・。◆解除◆
 
アメリカでは、何と言ってもアフリカ系が、人種差別主義者の最大のターゲットだが、アジア系も、ヒスパニック系も、アラブ系もターゲットになっている。近頃では、アラブ系が最大のターゲットかも知れない。『クレイジー・イン・アラバマ 』でも書いたのだが、アメリカの南部は、日本人がイメージしてるアメリカとは、どうも様子が違うらしい。特に田舎はコワい。心優しい人も多少は住んでいるだろうが、どうしようもない人種差別主義者も沢山いる。日本人も、間違いなく差別のターゲットだ。憎悪が憎悪を生み、復讐が復讐を生む。この繰り返しは、歴史上枚挙に暇がない。
 
日本で、ここまで強烈な人種差別話を映画にしたら、各方面から非難囂々になるのじゃないだろうか。しかし、そんな映画は、たぶん作れないだろう。日本の社会には、差別の歴史的事実を隠蔽したがる傾向があるから、触らぬ神に祟りなしだったりして・・・。
 
アメリカン・ヒストリーX American History X (1998) アメリカ  
監督:トニー・ケイ