『クライム&ダイヤモンド』は、ま、ちょっとうまく話がまとまりすぎたキライがある。

いくら相手が映画好きだといっても、椅子に縛りつけられて、銃を突きつけられて「なにかおもしろい話をしろ」と言われても、おもしろい話なんか思い浮かばないんじゃないか?それに、この毒舌ジムという殺し屋、何故さっさと仕事を済まして、好きな映画を観に行かないんだ?
 
と、まぁ、根本的疑問は措いておいて、わりとおもしろい映画だった。冒頭の大道芸の男がリチャード・ドレイファスとは気がつかなかった。次に出てきたときは、すぐにわかったのだが、えらい老けたなぁ。髪もひげも真っ白だった。リチャード・ドレイファスも同世代だ。若い頃に観たドレイファス出演作は、『アメリカン・グラフィティ』が最初だった。
 
あの映画は1973年の製作だが、ジョージ・ルーカスが製作・監督した青春もので、ヴィェトナム戦争前のアメリカの地方都市の若い衆のハイスクール卒業直前の一日(だったかな?)を描いてあった。ジョージ・ルーカスが監督だったとは知らなかった。この映画には、ハリソン・フォードも出ていたらしいが、記憶にまったくない。なんといっても、40年以上も前の話だ。
 
伴やら淳やらの服を着て、アイビーリーガーのまねをしていた高校時代の愚かなおにいちゃんも、さすがに20過ぎた頃には、アメリカ社会に不信感を持ち始めていたが、この映画に描かれていた60年代前半のアメリカは、素朴にあこがれの世界だったな。
 
リチャード・ドレイファスは、その後『ジョーズ』、『未知との遭遇』、『グッバイ・ガール』と立て続けに主演作がヒットして、一躍大スターになってしまったのだが、好事魔多しの喩え通り、酒に溺れ、ドラッグに手を出して、交通事故を起こして逮捕されてしまった。やはり若いうちに大金を手にすると、ろくなことがない。しかし、この歳になっても、小金しか手にできていない奴、をろくでなしというのも真実だったりする。ご贔屓の『スタンド・バイ・ミー』にも出ていたし、『オールウェイズ』では、オードリーが老けた天使の役で共演していたな。それにしても、この映画では、ドレイファスは随分あっさり殺されてしまった。、
 
『ゴーストドッグ』のときもそうだが、この映画でも、伝書鳩が塀の中とシャバを行ったり来たりしていたが、伝書鳩は鳥の帰巣本能を利用しているのだから、一方通行じゃないの?A地点とB地点の間を行ったり来たりする鳩っているのか?ネットで調べてみたら、伝書鳩レースで鳩舎に戻れない鳩が増えていると書いてあった。10羽のうち1羽しか戻って来ないなんてこともあるみたいだ。理由はいろいろあるようだが、携帯の中継塔から出ている電磁波が鳩の方向感覚を狂わせているという説も、何となく「さもありなん」という感じだ。
 
それで、日通の「迷い鳩サービス」というのもあったらしい。公園かどこかで、脚に輪っかをつけてぶらぶらと所在なげにしている鳩を見つけて、うまく掴まえられたらの話だが、日通に連絡したら、わざわざ引き取りに来てくれて、飼い主のところに送リ返してくれるという話だった。 今もやっているのかは定かではない。10年前のレートは、 全国一律着払いで、1羽2,000円だったらしい。輸送用段ボールケース込みだろうか?
 
さらに、鳩にステロイドやホルモン剤などを投与するドーピング疑惑が持ち上がっていた。といってもイギリスの話だが。もひとつおまけに、日本でも年間1000くらいの鳩レースをやっていたらしいが、鳥インフルエンザの影響で、ほとんど中止になったらしい。最近はどうなのか?日本の鳩レースでは、賞金は出ないそうだが、大きなレースに勝ったら、その鳩のヒナは一羽数百万円で売れたらしい。
 
映画好きの殺し屋が、昔の映画の名台詞やら製作年度まできちっと憶えているというのだが、一回観たくらいでは台詞まで憶えられないだろう。世の中には星の数ほど映画があって、目移りしまくりなんだが、短めの映画でも観るのに一時間半くらいはかかる。いくら精神を集中して観ているといっても、ストーリーのディテールやら台詞までしっかり記憶するというのは至難の業だ。私なんか、この映画の内容をもう忘れかけていたりするって、そりゃ呆けが始まっているのかも・・・。主人公のフィンチが、偽造のプロなんかじゃなくて、舌先三寸のペテン師で、話した内容がとことんでたらめだったら、もう少し違ったエンディングになったかも知れない。
 
ま、ちょっとうまいこと話がまとまりすぎたキライがある。この映画はダイヤの窃盗、脱獄、猟奇殺人、盗撮、旅券偽造、暗殺と犯罪のオンパレなんだが、ハードボイルドでも、社会派ドラマでもなかった。スリルもサスペンスもほとんどない。◆◆ネタバレ注意◆◆ファンタジーとラブストーリーは結構入っていた。ラストのどんでん返しも、あっと驚く類ではない。ハッピーエンドだというのも、近頃の映画にしては、珍しいんじゃないか。◆解除◆
 
映画のタイトルは、『クライム&ダイヤモンド』というのだが、なんとこれは邦題なんだ。原題は『WHO IS CLETIS TOUT?』 。何故こんな紛らわしい邦題をつけたんだ?それと、この映画も回想シーンと現在のシーンがごちゃ混ぜにしてあった。ややこしことするな。
 
クライム&ダイヤモンド WHO IS CLETIS TOUT?(2001)アメリカ  
監督:クリス・バー・ヴェル