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『ノスタルジア』は、淡々狸映画の極めつけだ。ま、映画館で観たら確実に寝てしまうだろう。

黒澤明も、フェリーニも、この監督も、どいつもこいつも歳をとって、「よっ、巨匠」と言われるようになると、無茶をする。ほとんど他人には理解不能な私小説みたいな私映画を撮ろうとするのだ。2002年に開催された「生誕70周年記念アンドレイ・タルコフスキー映画祭」のサイト( http://www.imageforum.co.jp/tarkovsky/nstlg.html )がまだ残してあったので、そこにあった、映画の解説を読むと・・・、 
 
「(前略)水と、光と、霧と、闇と、火の、タルコフスキー独特の詩的宇宙が、『ノスタルジア』では、従来のカラー作品の深く渋い色彩美にイタリア撮影技術の艶と鮮かさを加えて映像美の極致に達したといえよう。(後略)」
 
と書いてある。おっしゃる通りです。しかし、言わしてもらえば、「それで?それだけ?」だった。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆このサイト、それ以外にも、この映画の隠された筋も説明してくれている。なんでまた隠されたとわざわざ断ったかというと、このサイトで映画の筋を読むまで、そういう筋だったとはつゆ知らなかったからだ。(ホントに知らなかったんだ。ぼうっと観ていて字幕読むのをさぼることが多いのは、しぶしぶ認めるけれど、よくある撮影したシーンをシャッフルしたみたいな編集で鍛えられているから、結構話の筋を追っかけることだけは、得意のつもりだった)
 
のっけから霧の摩周湖だった。ノスタルジーいうよりノウムチューイだよ。モノクロ映画かと思ったら、あにはからんやカラーだった。それにしても地味なカラー映画だ。総天然色と言って、これでもかというくらい色彩を氾濫させていた時代の映画人が観たら、怒るんじゃないか?しかも、ラテンの国イタリアとは到底思えん暗さだ。どこかの映画批評サイトで、このDVDの痛恨の極みは、画面が明るすぎることだと書いている御仁がいたが、「何が映っているのか、見えないじゃないか!もっと画面を明るくしろや!」と、画面につっこんでいた。
 
1時間経っても、話の展開はなかった。ほとんど『ゴドーを待ちながら』の不条理な時間感覚というか、じっとガマンの子状態だ。どうってことないのだが、意味ありげな匂いのするシーンが次々映し出されるだけだ。流れに浮かぶうたかたの如く、かつ消え、かつ結びて、淡々と映画は進行していく。淡々狸映画の極めつけだね。ま、映画館で観たら、確実に寝てしまうだろう。
 
教会のなかで、マリア像の衣装のおなかのところのチャック(?)を開いたら、中から多数の小鳥が飛び出したんだが、あれは奇術か?それとも奇跡の再現か?昔、古今亭志ん生が、「落語家は、芸術家なんかじゃなくて、芸人だから、術は使わない」と言っていたのをどこかで聞いたか、読んだかした記憶がある(うろ覚え)が、映画監督も妙な術を使っては、イカン。
 
『ブラックレイン』で大阪の街を霧(というかスモーク)だらけにしたリドリー・スコットも「ようやるなぁ」だったが、この監督も無茶苦茶だ。映像の詩人というのも、百歩譲って認めよう。しかし、薄日が差しているのに、あの雨の勢いはなんなんだ?あれは時間雨量30~40ミリの土砂降りの降り方だ。◆解除◆
 
ただ、この手の独りよがり映画は、ヴィム・ヴェンダースの『都会のアリス』とか、ジム・ジャームッシュの『デッドマン』みたいな、思い入れタップリの若手監督の作品のように、若い衆をたぶらかしたりしないだけ、まだ罪はないとは言える。この監督、石をもてソ連を追われたんかどうかよくは知らないのだけれど、望郷の念といったら『ぺぺ・ル・モコ』のジャン・ギャバンとか、寅さんみたいに、一度は捨てたはずの故郷に対する熱~い想いが沸々と沸き上がって来ないといけないんじゃないの。この映画で、イタリアの景色にノスタルジー感じているのは、一体誰だ?
 
それと、この主人公みたいに、秘書のおねえさんに『好きなの、キライなの、どっち。蛇の生殺しみたいなマネをしないで』なんて言わすような優柔不断な態度はダメでしょう。(すいません。こんな台詞は映画にはなかったんだけど、あのおねえさんの気持ち代弁しておきました)ラストのろうそくショーと焼身自殺は、なんだったの?つまらない冗談としか思えないけれど・・・。
 
そのラストの廃虚だけは、絵的にちょっと凄かった。イタリアにはあんな建物がそこら中に転がっているのだろう。しかし、私的には『冒険者たち』の海の中の要塞の方が、ストーリーの背景としての存在理由があったと思うから、「映画のなかの名建築コンテスト」というのがあったら、あっちに1票入れる。
 
ノスタルジア NOSTALGHIA(1983) イタリア、フランス、ソ連  
監督:アンドレイ・タルコフスキー 
出演:オレーグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、ドミツィアナ・ジョルダーノ、パトリツィア・テレーノ、ラウラ・デ・マルキ、デリア・ボッカルド、ミレナ・ヴコティッチ