『さらば、わが愛~覇王別姫』は、堂々たる映画だった。傷つき、お互いを傷つけ合った男女の一生ものである。

堂々たる映画だった。京劇という伝統芸能の世界に生きたふたりの俳優、ひとりは歌舞伎で言えば、市川団十郎のような立ち役で、もうひとりは新派の花柳章太郎のような女形だ。それから、元娼婦で、気も強いが情も濃い女性が、団十郎の嫁だ。この3人が、歴史と運命の試練に翻弄されながら、清朝崩壊後の国民党の時代、日本軍占領下、人民解放軍の北京入城から共産党一党独裁文化大革命と、激動の時代を生き、傷つき、お互いを傷つけ合った男女の一生ものである。
 
ネット上に、故淀川長治さんの映画評があった(残念ながら、今はない)ので、ちょっと引用しておくと・・・。 
 
「いかにして中国がかかる見事本格にメロドラマを、芸術作品の大作を感じさす重厚をもって製作し演出できるのか、その映画エネルギーはただごとでない。イタリアのベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』に迫り、イギリスのバレエ大作『赤い靴』に近い。音楽の出し方、舞台シーンの挟み方も巧(うま)い。一九九三年カンヌのグランプリは当然である。世界でもまれに見る大作。いささかもほめすぎでない。日本は恥ずべきである。(中略)原題『覇王別姫(はおうべっき)』。日本題名『さらば、わが愛』これではスマートすぎて中国の華麗さがない」
 
その通り!。やっぱり、いいこと仰る。淀川長治大人に1票。
 
正直に告白すると、この映画、後半の日本軍占領下時代のあたりから観てしまった。2枚組DVDのDISC2の方から先に観てしまったのだ。しかも、後から気がついて観たDISC1の方は、途中でエラーがでて、後半は観られなかった。とほほ。。。それというのも、ヤッホーオークションで、えらく安く出品されていたので、こりゃあ、おかしいんじゃないかと疑ったんだが、安さに目がくらんで(即決)で落札してしまった。だから、団十郎と嫁さんの出会いの辺りは、まだ観てない。それでも、この映画は、充分すぎるくらい感動巨編だった。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ この15年くらい前から、時間軸を前後左右にごちゃ混ぜにしてある映画が多くなったから、この映画もそんなに違和感なく観てられたのだ。多少はどういうこと思うとこもあった。たとえば、いい大人のおにいさんがお尻を出して、お師匠さんという爺さんにお尻をひっぱたかれる折檻シーンは、なんじゃこりゃ?と思ったりした。後で、幼年時代のシーンを観て、なるほどと納得した。
 
このふたりは、小さい頃に京劇の一座の座長に売られた(?)のだが、子供のうちだから、発声や台詞をたたき込まれただけではなくて、股割りやら、バク転やら、お尻ビシバシの刑やら、水入り金盥を頭に載せて立っとけの刑やらの、超スパルタ教育だった。上海雑伎団も真っ青、宝塚音楽学校なんか目じゃない。あれくらい厳しい訓練をしないと、京劇役者にはなれないということだろう。それにしても、あの座長、あんなに多勢の子供にメシを喰わしていて、採算が合うのだろうか?◆解除◆
 
この映画、最初から観た方が、いいに決まっている。
 
「中国の山口百恵」とも評されるコン・リーは、確かにかわいらしい。しかし、チャン・ツィイーもそうだが、やはり中国人の顔だ。ふたりともハリウッド映画の『SAYURI』で日本の芸者の役をしたらしいが、アメリカ人から観たら、中国人も日本人も同じに見えるのかも知れないが、やはり、日本人の役は日本の女優にさせてやって欲しい。
 
さらば、わが愛覇王別姫(1993) 香港  
出演:レスリー・チャン、チャン フォンイー、コン・リー