『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』は、余命幾ばくもないふたり組のちょいと切ないおとぎ話ロード・ムービーだ。

脳腫瘍と骨肉腫。不治の病にかかってしまって、余命幾ばくもないふたりの若い衆が、入院した病院で、たまたま同室になって、たまたま見つけたウオッカの勢いで、たまたま駐車場に停めてあったギャングの1963年式メルセデス・ベンツ230SLのカブリオレ(同じ車を中古車のオヤジがCD付きと言っていたが、たぶん後付けだろう。ま、どっちゃでもいい話だけど)を乗り逃げして、海を見たことがないという一方の若い衆の希望を叶えるべく、海を見に行ったのさ、というか、イカれたふたり組のちょいと切ないおとぎ話ロード・ムービーだ。
 
以前に、どこかの病院であった悲惨な殺人事件の方こそが現実だ。末期ガンの患者だった親爺が、やけくそになって、どうせ死ぬのだから、道連れのしてやろうと、同室の患者さんと看護士を包丁で刺し殺した。言語道断、無茶苦茶な奴だ。しかも、その男は刑に服すどころか、すぐに死んでしまった。事実は映画より悲惨なり。
 
深刻なシチュエーションを作って、その悲惨さをこれでもかぁみたいに突きつけてくる暗い映画は好きになれない。お涙頂戴ものもどちらかというと遠慮したい。純愛ものもこの歳になると、ちょっと気恥ずかしい。その点、この映画は、癇に障るところがあまりなかったから、まずまずいい出来だ。(何を偉そうに・・・)
 
アメリカンニューシネマとヴィム・ヴェンダースタランティーノを混ぜた感じ。芸術的とまでは言わないが、結構叙情的な映像とテンポのいいはちゃめちゃストーリーがミスマッチ風にマッチしていた。
 
「脳腫瘍でもう手遅れだ」と医者が告知していたが、イクラなんでも、そんなバナナ。医者がそんなことを面と向かって言うだろうか?ま、つっこみだしたら霧がない摩周湖だけど、これがヤケのヤンパチ話の大前提だから、負けておこう。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ 車は手に入れたものの、金がないから、まず、ガソリンスタンド強盗だ、次に、パジャマのままで病院を飛び出したんで、着る服も靴もないから、銀行強盗だと悪事を重ねるのだが、コミカルな演出と誰も殺されたりしないので、悲惨な展開にはならない。甘いと言ったら、めちゃ甘いのだが、ころころ人殺しをする映画より気に入った。
 
『死ぬ前にしたい10のこと』の主人公は、子持ちの若い主婦だったから、やりたいことも結構慎ましいというか、ほほえましいみたいだが、こっちは若い男だから、やはりどうしても下半身からの要望が優先されるみたいだった。希望は3Pだったが、10Pでも、20Pでも、できる状況なんだけれど、ここでもそんな無茶はしなかった。なかなか節操があるみたいだ。この若い衆らは。◆解除◆
 
そういえば、「最高の人生の見つけ方」で、ジャック・ニコルソンモーガン・フリーマンの二人は、金に糸目をつけずに、やりたいことをやりまくっていた。中年の親爺の夢となると、ま、あんなところだろう。
 
さて、この映画、なんだか日本映画っぽいな。というか、こういう映画だったら、日本でも出来るはずだ。別にCGを使いまくっているワケではないし、高そうなメルセデスはぶっ潰したりしないし。潰したのは安もののドイツフォードだった。『ブルースブラザース』みたいに、廃車の山を作ったりはしない。パトカーは大分穴だらけにしていたが、ま、板金だけで直るだろう。たいしてお金をかけなくても、シナリオが面白くて、監督のセンスがよくて、役者がうまかったら、いい映画は作れるものなんだ。 
 
しかも、この映画、アメリカ映画と違って、悪辣外道なプロデューサーがバックにいなかったようだ。バイオレンスシーンも、お色気シーンも、あるにはあるが、おとなしいというか、さわりだけみたいだった。えげつないプロデューサーだったら、もっと激しいシーンを撮らんかいと、監督にダメ出ししていただろう・・・。 
 
それにしても、あのスケボー少年、えらく気が強かった。それから、金髪オオカミヘア、白衣の胸ボタン3つはずしのナースちゃんなんか、お堅い病院にいるのか?もうひとつ、ギャングも警官も射撃が下手すぎ。あんなにタマを撃ったら、普通は1発くらい当たらずといえども、かすめるくらいはするのじゃないか?それから、いつもU首シャツ姿の警官が、妙に気色悪かった。
 
ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR (1997) ドイツ  
監督:トーマス・ヤーン 
出演:ティル・シュヴァイガー、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ティエリー・ファン・ヴェルフェーケ、モーリッツ・ブライブトロイ、ルトガー・ハウアー