『シャイン』の主人公は、女性運には恵まれていたようだ。

いやはや、この映画でも思いきりタバコ吸いまくっていた。今回は主人公の奇人変人ピアニストだけだが・・・。この男、映画では子供時代から青年時代、親爺時代と3つの時代を3人の俳優が演じわけているのだが、オスカーは、親爺時代を演じたジェフリー・ラッシュがもらった。少年時代の子役も青年時代のにいさんも熱演だったと思うのだが・・・。
 
オーストリアの実在のピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットの実話を映画化したらしいが、このピアニストの親爺さん(親愛の情を込めて親爺さんと言わしてもらおう)はラフマニノフの『ピアノ交響曲3番』や『熊ん蜂の飛行』なんかを神業のテクニックで弾き倒す。
 
こう見えても、クラッシックは結構好きなんだ。車のCDにもトム・ウェイツの『SMALL CHANGE』の次に、モーツァルトの『ピアノ協奏曲第20番、第21番』が入っていて、その次はキースジャレットの『ザ・ケルン・コンサート 』で、エリック・サティピアノ曲集とジャニス・ジョプリンのベスト盤が続いて、最後は嫁さんお気に入りの加藤登紀子だったりする。最後の1枚を除いて、ピアノ曲としゃがれ声がどうも好きみたいだ。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ハッキリいって、この天才ピアニストの親父がイカン。あそこまで、息子に期待をかけてはイカン。しかも、アメリカへ留学するための資金も寄付で集まって、いざピアニストとしての世界が広がりだそうとしたときに、突然「家族は一緒に暮らさなければイカン」と言って、息子を手元に引き留め、アメリカに行かさなかったのは、もっとイカン。しかも、めちゃくちゃ難しい「ラフマニノフ」に挑戦しろと言ったのも、イカンイカン遺憾だ。◆解除◆
 
そりゃあ、あんな頑迷な親父から、プレッシャーをかけられ続けていたら、おかしくなっても仕方がない。ガキの頃から「この子は、やればできる子だ」と言われながら、ずっとまわりの過大な期待を裏切り続けてきたのだが、今になってみると、できないものはできん、やればできるはできないのだとつくづく思う。さっさとはしごを登るのをやめてしまったから、精神を病むことはなかった(と自分では思っている)。
 
それにしても、この主人公、女性運には恵まれていた。艶福の星の下に生まれたのか?精神病院で出会った教会のオルガン弾きのおばさんもそうだし、結婚したおばさんもそうだし、レストランのおねえさんもそうだ。みんな母性本能をくすぐられたんだろうな。
 
それから、この主人公は異様に水に浸かるのが好きなのだが、水を見たら飛び込まずにおれないラブラドール・リトリバーのDNAを組み込んだんじゃなかろうかと訝るくらいの水好きだった。それと、すぐに裸になりたがるのも、精神病理学的には水好きと関係があるのだろう。 
 
何を隠そう、私も水好きだが、すぐに裸にはならない。もう40年も渓流のフライ・フィッシングや鮎釣りをやっているが、もともと釣り好きなのか、川好きなのか、突き詰めて考えると、どうも川好き、水好きみたいだ。渓流のクリスタルウォーターを見て「水道の水みたい」との賜った都会育ちの馬鹿たれもいるが、確かに、水は命の源で、人間、水がないとひからびて死んでしまう。また、水に浸かると重力の呪縛から解き放たれる。この映画の主人公も、トラウマになっていた父親の期待感の重圧から、つかの間解放されたのだろう。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆映画の後半、主人公は、レストランのピアノ弾きとして現実世界にカムバックするのだが、おかげでお店は大繁盛。ここらは『バクダッド・カフェ』と一緒だ。芸は身を助くというのか、あんな天才ピアニストの演奏を間近で聴けるのだったら、少々テーブルチャージが高くても、ガマンするよ。◆解除◆
 
レイチャールズの真似をしてオスカーをとったジェイミー・フォックスもそうだが、俳優というのは真似がうまいものだ。あんな風に、めちゃめちゃ上手に弾いているように見せられるだけでも、大したもんだと感心してしまった。
 
ところで、10年ほど前に話題になった、あのイギリスの記憶喪失ピアノマンは、今どうしてるんだ?
 
シャイン SHINE (1995) オーストラリア  
出演:ジェフリー・ラッシュノア・テイラーアーミン・ミューラー=スタール 、ジョン・ギールグッド 、リン・レッドクリープ