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『ブリキの太鼓』は、観る前からちょっと心配だったが、やはりエライものを観てしまった。

この映画の原作者、ギュンター・グラスが今年の4月に亡くなった。享年87。戦後のドイツ文学の中で、特別な存在だったようだが、こちとらはフランスかぶれだったもので、作品を読んだことはなかった。
 
映画を観て衝撃を受けたのは、久しぶりだ。『エル・トポ』以来か・・・。どちらの映画も甲乙つけがたいほどグロテスクなシーンが多いのだが、こちらの方がちょっと根が深いというか、人間性の暗部にしっかり碇が届いていた。
 
「1927年のポーランドのダンチッヒを舞台に、3歳で自らの成長を止めた少年オスカルの視点で、激動の時代を描いた異色作」ということだったので、観る前からちょっと心配だったのだが、やはりエライものを観てしまった。
 
ヨーロッパ人は、キリスト教の戒律でがんじがらめにしておかないと、何をしでかすか分からない、とんでもない連中なんだ。この映画でも、ナチスの台頭が背景だったが、ナチスをのさばらせた原因のひとつが、ヨーロッパ人の野蛮さだと思う。元々狩猟民族だったから、手間暇かけて育てて収穫するんじゃなくて、そこら辺にあるものを収奪するのが基本なんだ。金も財宝も食いものも女も。ほんの6~70年前の出来事なんだけれど、今でも野蛮さ自体はどれ程も変わっていないだろうと、信じて疑わない。
 
こういう野蛮さのバックにあるのは、知性の退廃というやつだろう。知性というのは、言い換えたら知恵だ。知性の退廃といえば、はっきり言って、悪知恵のことだ。純真素朴な民族なら、端から諍いは好まない。国と国が国境線で隣り合っていて、しかも、歴史的に国境線がああっちこっちに行ったり来たりしていたのだから、力でねじ伏せた方が正義だみたいな考えになりやすい。悪知恵を働かす奴が気に入らない奴を皆殺しにして、そこいら中の富を独り占めする。その内、寝首を掻く奴が出てきて、ボスの座をかっさらう。こういうことを連綿と続けてきたのが、ヨーロッパだ。
 
映画の話に戻ると、主人公のオスカルは、見た目は8・9歳という感じだった。この子が、3歳のときに自分の意志で成長することをやめたということだが、3歳といえば、よちよち歩きからやっと抜け出したところだろう、どう考えても、自我の目覚めには早いんじゃないか?しかも、肉体的成長をやめたというのは、百歩譲って認めても、精神的には成長しているのだから、周りの大人が、いつまでも子供扱いするのは何故なんだ?
 
イヤ、話はそんなに単純ではなくて、このガキの中では、子供の部分と大人っぽい部分がないまぜになっていたようだ。特に、この映画のテーマのひとつである性の面では、3歳の子供はハッキリ言って、性に目覚めてたりはしない。この面では、オスカルはどちらかというと、思いっきりませたガキだった。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ それにしても、グロテスクな映像の連続だ。若かりし頃のおばあちゃんとおじいちゃんとの出会いのシーンもそうだし、オスカルの誕生のシーンもそうだし、特製スープのシーンも、ウナギ漁のシーンも、母親の不倫シーンも、粉末ソーダも、これでもかというくらい神経を逆なでするシーンが続く。極めつけは、オスカルの金切り声だ。超能力の暴走というか、『キャリー』を思い出した。 ◆解除◆
 
しかし、目を覆う気にはならなかった。グロをグロとして見せつけることが監督の狙いではなくて、この脚本では、必然的にグロっぽくなってしまったという感じだ。
 
シャルル・アズナブールが、ひょっこりといった感じで出ていた。ユダヤ人のおもちゃ屋の親爺の役なんだが、この親爺だけがこの映画の中で、唯一マトモぽかった。
 
それから、かつて『てなもんや三度笠』で珍念役をやっていた白木みのる似のサーカスの団長やら、読心術のできる南米系(?)の小女やらの異形種交流も盛んだった。
 
ちなみに、白木みのるさんの本名は、柏さんで、柏を木と白を分解して、実が成ったらいいというので、「白木みのる」になったらしい・・・。
 
広場でのナチの大会をオスカルの太鼓がダンス大会に変えてしまうシーンは、『フィッシャー・キング』のグランド・セントラル・スーテーションのシーンを彷彿とさせた。テリー・ギリアムが、この映画を観てぱくったのかも・・・。
 
この映画もファンタジー映画のカテゴリーに入るのだろうが、ほとんど悪夢のごときファンタジー映画だった。ヨーロッパ映画は、フランスも、イタリアも、スペインも、イギリスも、ドイツも、結構変わった映画が多い。子供が小さかった頃は、ハリウッドものばかり観ていたキライがある(子供がこんな映画を観たら引きつけ起こす)。それと、近所のレンタルビデオ屋に、こういうヨーロッパものが置いてなかった。それにしても凄い。一見に値することだけは保証する。
 
ブリキの太鼓 DIE BLECHTROMMEL (1979) 西ドイツ、フランス  
出演:ダーヴィット・ベネント、マリオ・アドルフ、アンゲラ・ヴィンクラー、ハインツ・ベネント、ダニエル・オルブリフスキー、シャルル・アズナヴール