『はなればなれに』は、遅くとも20代半ばあたりまでに観ておくべきだった。

この映画、ゴダールの長編7作目らしいが、『勝手にしやがれ』の続編にして、『気狂いピエロ』のプロローグとゴダール自身が位置づけていたらしい。2001年日本初公開だったというから、36年振りに日の目を見たワケだ。何とも長い間お蔵入りしとったんだな。ま、日本未公開の映画は沢山あるから、映画配給会社に見る目がなかっただけなのかも知れない。
 
「若気の至り」と評した映画評があった。私もそう思う。この映画は、遅くとも20代半ばあたりまでに観ておくべきだ。私のような初老の紳士(?)が観ても、いまいち感情移入できなかった。若い衆の馬鹿騒ぎに眉を顰めるといった感じ。出来ることなら、肌に張りのある紅顔の美少年の頃に観たかった。近頃では水気も脂っ気も(髪の毛も)抜けてしまって、カサカサ状態だ。「感性ゼロだ」とこきおろされるようになってしまった。寄る年波には勝てないということだろう。嗚呼無情・・・。 
 
ちょっと筋を紹介すると、女ひとり(叔母さんちに住んでいて、英語学校に通っているパリジェンヌ)と男2人、ひとりはアルチュール(ランボー?)という名前で、ブ男系だが天性の女たらしみたい(女たらしの才能のある男は、何気なくカラダに触るのがうまい)で、もうひとりの元ガンバの宮本似の二枚目は、フランツ(カフカ?)という名前で、こちらはどちらかというとコケにされている、との三角関係がベースで、その3人が無茶をする映画だ。以上。
 
監督も無茶をする。確かに、ゴダールにとって、アンナ・カリーナは、創造の女神だった。この映画もアンナ・カリーナがいなかったら、出来なかっただろう。『気狂いピエロ』のアンナ・カリーナも、あどけなさが見え隠れするシーンがあったが、この映画のアンナ・カリーナは、あどけないどころではない。ゴダールのイマジネーションの中で創りあげた、完全なる「若い女」だった。少女でもなければ、ましてロリータでもない。子供とは違う未成熟さ、奔放さ、しなやかさ、浮遊感、フェロモン、まさに「若い女」なんだ。ふ〜、ちょっと力説しすぎた。「キスは舌を絡ませてやるのよ」と言って、舌を出してキスされるのを待ちかまえていたシーンの演出なんか、あざとすぎるだろ。
 
朝から晩まで、生身の女をやっているのは、いろいろ大変だろうと、世の女性たちに同情するものだが、映画のなかで、自由奔放に弾けまくる若い女というのは、肉の重みがない分、軽やかだ。実際アンナちゃんは、かなり華奢な体つきだが。男を振り回すだけ振り回して、大抵破滅の淵に引きずり込むのだが、男の方でも、それを望んでいるとしか思えない。現代の日本で、こういうファム・ファタール系というか、小悪魔系の「若い女」はどこにいるのかと愚考するに、ひょっとして、キャバクラとかにいるのかも知れない。残念ながら、一度仕事の打ち合わせで、開店前のキャバクラに行ったことがあるだけで、営業時間中に行ったことがないもので、キャバ嬢の実態はよく知らないのだが・・・。キャバ嬢どころか、夜の蝶科の全種に疎い。
 
しかし、アンナ・カリーナの顔は、何とも奇妙だ。決してノーブルではない。どちらかというとファニーフェイス系だ。目は大きいけれど、いっつもアンニュイ感が漂っているから、爽やかな印象はない。あの目で凝視められるのと、若い頃の、さとう珠緒ちゃんとどっちがゾクっと来るか?若い頃ならアンナ・カリーナだったろうが、初老ともなると、タマちゃんかな。もう存在自体が不如意なので「アンニュイなところがいい」なんて言っている場合じゃない。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆カフェにいる3人が「1分間黙ってよ」と言ったら、突然音楽も周りの音もな~んにも音がしないようになって、無音の状態が続くという演出も、映画館で観ていたらかなりインパクトがあっただろう。30秒も経ったら、お尻がむずむずしてくるんじゃないか?それと、ルーブル美術館の中を手を繋いで走り回るというシーンも、アホが真似しないか心配だ。って、実際に走り回ったら、守衛さんにつまみ出されるだろうが・・・。
 
もうひとつ、印象的なシーンがカフェの席替えだ。ふたりが横並びに座れる席とその向かいの席をぐるぐるポジションチェンジする。イカにも、ひとりの女を挟んで、ふたりの男が有利なポジションを狙っているという関係性を雄弁に語っていた。それから、これから叔母さんちに強盗に行こうかという前に、アンナ・カリーナの履いていたストッキングを脱がせて頭から被るシーンも、ストッキング・フェチの男が観たら、もう、うらやましすぎて、発狂するんじゃなかろうか・・・。◆解除◆
 
最後に、有名(?)なカフェのダンスシーンだが、そんなに感心しなかった。あれだったら、『暗殺の森』のダンスシーンの方が格段に凄かったと思う。アンナ・カリーナの台詞で印象的だったのは、「結婚とは、自分の胸と脚を捧げること」。う~ん、さもありなん。
 
はなればなれに BANDE A PART (1964) フランス  
出演:アンナ・カリーナ、サミー・フレイ、クロード・ブラッスール