『エル・スール』は、客の立場というものに、配慮が要るんじゃないか?

ま、言ってみたら純文学映画だ。この監督の長編第1作の「ミツバチのささやき」の方は、結構贔屓にしていたのだが、この映画は、話があまりにも見えなかったので、何ともはやだった。
 
映画を観た後で、DVDの付録の解説を読んだら、どうもこの映画には原作があったようで、原作を読んでから映画を観るか?映画を先に観てから原作を読むか?の永遠の疑問に一つの答えを与えてくれる。この映画の場合は、原作を読んでおいた方がいい。
 
原作では、主人公の女の子の行動も、父親の行動も、少しは説明されているようだから、読者はしぶしぶ納得させられるのかも知れないが、映画だけを観たのでは、いっさい説明されないから、何のこっちゃ?と訝りながら観ているうちに、唐突にエンドロールが始まってしまう。エンドマークすら出なかった。 
 
それでも、芸術系の映画好きとしては、結構気に入っていたりするのだが、何故かと言えば、画面がきれいだった。しっとりした名画、映画ではなくて絵画の方、フェルメールの絵のような奥深い趣があった。
 
ちょっとばかり考察してみるに、絵は画家が描いたものだから,画家の目を通した風景だが、映画の映像は、CG使いまくりで、鬼面人を驚かす類いの派手な映像はあっても、映像美というほどの映像は、滅多にお目にかかれない。何故なの?とつらつら考えるに、映画監督は、ついつい役者の演技の方に目がいって、背景にまで目配りできてないんじゃなかろうか?それとも,カメラマンの腕の問題か?
 
いずれにしても、この映画のように、監督が映像美にしか興味がないのじゃなかろうかというような映画は珍しい。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆それにしても、この親父、水脈判定師というのか、要するに、ここ掘れワンワン、井戸を掘る場所を見つける仕事をやっている(のか?)ようなんだが、そんな仕事で、食っていけるものだろうか?実家は結構お金持ちみたいだったから、嫁さんが亭主に内緒で援助してもらっていたのだろうか?それにしても、あの親父は何が気に入らんといって、失踪してしまったんだ?◆解除◆
 
しかし、こういう映画はDVDで観るに限る。この映画の予告編も特典映像に入っていたけれど、これも「何じゃらホイ?」の代物だった。この予告編を観て、映画館に足を運んだら、どれほど寛大な人格者でも「金返せ」と言うな。わざわざ映画館に行って、なけなしの金を払らって観た映画が、なんのことか訳が分からなかったら、客が怒るのは仕方がない。監督さんも、もう少し客の立場というものに配慮が要るんじゃないか? 
 
エル・スール El sur (1983)  スペイン・フランス
監督・脚本:ビクトル・エリセ
出演:オメロ・アントヌッティ ソンソレス・アラングーレン イシアル・ボリャン