『都会のアリス』は、映画そのものが、落書きみたいなものだと思った。

ヴィム・ヴェンダースロードムービー3部作の第1作にして、傑作の呼び名にまた騙された。同じ監督の『パリ、テキサス』は、パリからテキサスまでの旅の話だと思っていたら、そうじゃなかったが、この映画は間違いなくロードムービーだった。何しろ、アメリカ、オランダ、ドイツと3カ国にまたがった少女連れ回し話なんだから。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ それにしても、英語がほとんど話せないドイツ人の母娘が、どうしてニューヨークにいるんだ?ニューヨークに来る前は、オランダにいたって言うじゃないか。国際的流れ者か?その上、いくら異国で出会った同胞だといっても、そんなに急に親しくなるか?。話の展開上、同じホテルの同じ部屋に泊まることになったというのは、ま、百歩譲って許そう。しかし、ほとんど赤の他人の男の前で服を脱ぐ奴はいないだろう。(一目会ったその日から、の場合は脱ぐかも知れないが。。。)
 
この母親、娘を見ず知らずの男に預けて、彼氏に会いに出かける。アンビリーバボーな展開だった。女も女だが、この主人公の男も、31にもなって「自分が分からない」とか宣うのは何なんだ?しかも、自信満々で今晩泊めてもらうと言って訪ねていった彼女(?)に「どう生きるかなんて教えられない」とか言われて、部屋をおっぽりだされる。『フィッシャー・キング』もそうだが、これも神経症みたいな男が主人公の映画だった。どうも最近こんな映画ばかり観せられている気がする。誰のせいなんだ?◆解除◆
 
フィッシャー・キング』も『恋愛小説家』もニューヨークが舞台だったが、この映画のニューヨークほど、陰気くさいニューヨークは、他に例がないんじゃなかろうか?思わせぶりなカットは、そこかしこに入っていたけれど、エンパイアステートビルからの眺めも、あのクライスラービルですら、陰気くさく映っていた。確かにスクリーンで切り取られた風景と実際の風景は違うものだが、この映画の場合、虚構の風景ではなく、実際の風景に近い風景が写っていたのかも知れない。その分、スカな風景になってしまったんだろう。
 
ところで、この映画では、ポラロイドカメラで撮った写真が意味深な小道具として使われていたが、私の経験から言わせてもらうと、素人が撮ったら、しょうもない風景はしょうもない風景にしか写らない。絵になる風景は、絵にはなるが、絵はがきみたいに退屈な写真になってしまうのがオチだ。天才アラーキなら、しょうもない街の風景が、びっくりするような写真になっていることがあるが、あれこそプロの写真家の腕というものだろう。ポラロイドカメラは、人物写真かペットの写真がちょうどいい。最近のスマホでは、わざわざスクエアという画角があって、真四角の写真をつなげるサイトが人気らしい。
 
しかし、いくら母親に頼まれたんか知らないが、9才の少女をそんなに連れ回したらイカンでしょ。これはもう立派な犯罪じゃないか・・・。よく小学生の女の子を連れ回した男が捕まるが、こういう映画があるからバカなまねをするんじゃないかと思ったりもする。暴力描写がひどすぎる映画とか、性犯罪の映画とかが青少年に悪影響を与えるんじゃないかという「論議は、結構昔からPTAのおばさんレベルであったが、こういう映画の方が実は根が深い。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆せっかく苦労して探し当てた家に、知らないイタリア人が住んでいたからって、さっさと帰るな。隣の家の人とか、近所の酒屋とか、たばこ屋とか、どこへ引っ越したか知っていそうな人を探せよ。しかも、唐突に泳ぎに行こうというのは、なんという非常識な台詞だ!観客をなめているのか?それに、子供を使っててナンパするな!女も女だ。簡単にナンパされるんじゃない!監督もこんなご都合主義のシナリオで映画を撮るな!あほらし屋の鐘の叩きすぎで、壊れそうだ。 
 
他の人の映画評を読むと、この作品に随分好意的なんだが、贔屓目にみても、やはりこの映画はおかしい。30過ぎの男が、9才の子供相手に「怖い」なんて言うだろうか?『レオン』の奥手の殺し屋と12才のマチルダとの悲恋の方が100倍ましだ。一旦女の子を警察に引き渡して、チャック・ベリーのコンサートを突然見に行ったというのもワケが分からない。こういう作家ものの映画は、深読みして分かったような顔をするのが正しい鑑賞態度だ!お前なんか感性ゼロだ!ワケが分からなくてもいいんだ!と逆つっこみされそうだから、もう黙っておこう◆解除◆
 
さて最後に、主人公は一応物書きらしいが、何度も女の子に、「また落書きを書いているの?」と言われ続けていたが、この映画そのものが、落書きみたいなものだと思った。ま、この映画評も似たり寄ったりだけど・・・。
 
都会のアリス (1973)西ドイツ Alice In Den Stadte 
出演:リューディガー・フォーグラー、イエラ・ロットレンダー、リザ・クロイツァー