『おくりびと』は、いい映画だったが、「キレイになって、逝ってらっしゃい。」というキャッチコピーは、どうなんだ?

第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」だ。いい映画だった。納棺師という仕事があることを初めて知った。戦争で亡くなった兵士の遺体なんかをきれいにするエンバーミングというのがアメリカで始まって、日本にもあるというのは以前から知っていたが、納棺師の場合は、湯灌して、白装束に着替えさせて、死化粧を施し、棺に納めるまでが仕事のようだ。
 
しかも、遺族が見守る前で、一連の作業というか所作をするので、これはなかなか緊張するだろう。高校時代の友人も、大学生の時に葬儀社のバイトをやっていたのだが、日当は結構よかったようだ。やはり、誰もが積極的にはやりたがらない仕事は、多少は割がよくないといけない。それに、こういう仕事は、天職だと思わないと長続きしない。 
 
今時の都会では、自宅で葬式を出すことがほとんどなくなったので、こういう場面に立ち会うことがなくなりつつあるように思うのだが、それにしても、生まれてきた限りいずれは死ぬのだが、死出の旅支度については、誰かにやってもらうしかないので、ぞんざいにやられるのは、私としても嫌だ。
 
ただ、あの白装束は願い下げにしたい。いくら民族衣装だからといっても、あの和風の格好で、冥土の旅に出発するのはカッコ悪い。時代劇のエキストラじゃないのだから、21世紀仕様の白装束を開発してくれたらと思う。白のタキシードでは、いささか演歌歌手の感じがするが・・・。
 
最近の葬式では、霊柩車も宮型が絶滅危惧種になりつつあり、リムジンタイプの黒塗りワゴンが増えてきているが、あの黒塗りリムジンもいいんだけれど、花電車みたいに派手な演出の霊柩車があったらいいのにとも思う。 おごそか感と言うか、しめやか感というのは皆無だが・・・。
 
ところで、東京の楽団でチェロ奏者をやっていた男が、プロの音楽家の道を断念して、故郷に帰ってきたのだから、いくら学生時代に弾いていたチェロが家にあったといっても、もう一度弾いたりするものだろうか?プロとしてやっていた音楽を断念したのだから、2度と楽器に触れようとしないのではなかろうか?ま、クラシックの音楽家は、そんなに儲かるものではないだろうから、音楽が好きでないと出来ない仕事だから、プロとしては続けられなくなったとしても、演奏することまで辞めてしまうことにはならないのかも知れないが・・・。
 
本木雅宏もよかったが、山崎努には、いかにもそちら関係の人らしい陰気くささが漂っていた。それと、贔屓にしている余貴美子嬢もよかった。嫁さん役の広末凉子はまあまあだった。彼女はWEB デザイナーという設定だったのだが、全くそれらしくはなかった。
 
これはどうでもいいことなんだが、この映画は、日本的な旅立ちのお手伝いを描いているのだが、主人公の実家も、NKエージェンシーの建物も、国籍不明の洋風建築だった。やたら食べ物を手づかみで食べるシーンが出てきたのだが、あれを観た外国人は、日本人は何でも手づかみで食べるのだと思い込むそそっかしい奴が出てくるかも知れない・・・。
 
それにしても、「キレイになって、逝ってらっしゃい。」というキャッチコピーは、どうなんだ?
 
おくりびと Departures (2008) 日本
監督:滝田洋二郎 脚本:小山薫堂