『レオン』は、映画のツボをことごとく押さえた演出だから、つっこみを入れている暇がない。

さすがにリュック・ベッソンはプロの映画監督だ。前回の『都会のアリス』の映画評で、少女と男の道行きものでは、『レオン』の方が100倍いいと書いた手前、もう一度見直して、どこがどういいのか、きちんと検証してみた。 
 
ジャン・レノ扮するイタリア系ヒットマンのレオンと同じ階にナタリー・ポートマン演じるマチルダの家族が住んでいたことが、この映画のお膳立てになっている。ここで、ひとつ疑問を呈すると、ふつう娘は父親に似るものだから、あのちんちくりんの親爺からマチルダのようなカワイイ娘が生まれるはずがない。
 
それにしても、職人の技というのか、映画のツボをことごとく押さえた演出だから、つっこみを入れている暇がない。◆◆ネタバレ注意◆◆ レオンは二十歳くらいの頃にイタリアで殺人事件を引き起こし、はるばるニューヨークのリトル・イタリーに流れ着いて、たぶんそのまま不法滞在しているかなり腕のいい殺し屋だ。『ゴースト・ドッグ』の武士道大好きヒットマンとどちらが腕がいいかといえば、たぶんレオンの方だろう。しかし、鉢植えの観葉植物を猫っかわいがりしているという変な奴なとこもきちんと作ってある。親殺しというか、最愛の弟まで殺した鬼畜のような麻薬捜査官に復讐するため、レオンに弟子入りしたいというマチルダも、とんでもない娘だが、まぁ、この設定を否定したら、映画が始まらない。◆解除◆
 
程良いペーソスとちょっとこそばゆい純愛系ラブストーリー、それと、ど派手なバイオレンス・アクションに殺しの美学が加わって、エンターテイメント映画としては満点の出来だ。以前に観たスタンダード版と今回の完全版と、どちらががよかったのか、前に観たのがかなり前だったから、どっちとも言えないのだが・・・。感動するような話でも、泣ける話でもないが、良質のヤクザ映画(フィルム・ノワール)といったところ。この映画で、もうひとり忘れてならないのが、ヤク中の麻薬捜査官。あのブチ切れ悪役キャラがいたから、観客は安心してマチルダの殺し屋修行を見守れる。ゲイリー・オールドマンもうまい役者だ。 
 
◆◆ネタバレ注意◆◆ ところが、このマチルダ「ちょっと待ちるだ」とかダジャレを言ってる隙に、単身麻薬捜査局に殴り込み掛ける。いい根性してるじゃないか。しかし、あっさりとっ捕まって、あのラリラリ捜査官にねちねち拷問されるのかと思いきや、これまた、あっさりレオンに助け出された。この辺りはちょっと調子よすぎだな。◆解除◆
 
ラストのカタルシスのあとに、もうひとシーンあるのだが、別になくてもいいような、ま、あってもいいような。『たそがれ清兵衛』ほど、笑かされる付け足しエンディングではないものの・・・。
 
こういう親爺と少女の関わりを描いた映画では、大抵少女が思いっきりませていて、男の方はどこか青臭いというパターンがあるようだ。この映画もしかり。しかし、『レオン』と『都会のアリス』が根本的に違うのは、少女が男の支配下にあるかどうかだ。確かに『レオン』でも、男はマチルダにいろいろ指図したり注意したりする。しかし、マチルダはかなり自由にあちこち出かけられる立場にある。一方、『都会のアリス』のアリスは、男から見放されると途方に暮れる立場だ。この子は精神的にかなり支配されている。
 
しかも、『レオン』の描いているのは、全くの虚構というか非日常の絵空事で、誰もあんな殺し屋にはなれない。『都会のアリス』は、普通の顔をした一般人で、映画のような出会い方はあり得ないにしても、少女を車に乗せて連れ回す状況は、誰でもやろう思えばやれる。つまり、日常の延長線上の関係というところが、『レオン』とは大違いだ。映画そのものも真面目な顔をしているだけに危ない。『レオン』は真似できないが、『都会のアリス』の方は、真似をする馬鹿が出て来やすい。
 
レオン(1994)フランス LEON