『モンティ・パイソン 人生狂騒曲』は、地上のありとあらゆるもので嘲笑の的にできないものなどないという感じだ。

こういう映画が好きか嫌いかと聞かれたら、どっちでもないとしか答えられない。白黒ハッキリしろと詰め寄られたら、「どちらかと言うと、蛇蝎の如く忌み嫌っているワケでは決してない。けれど、なんと言いましょうか?ブラック・ユーモアというのは、日本人にはあまり受け入れられにくいジャンルだね。なぜなら、日本人はヨーロッパ人ほど底意地が悪くないからね。いやホント」と煮え切らない答えになってしまう。映画自体が両刃の剣のようなところがある。観客である自分は、安全地帯にいるつもりでも、いつの間にか嘲笑、哄笑の的にされていたりするのだ。日本や日本人をおちょくったり、こういう映画が好きだという輩を笑い飛ばしたりする話なんか、すぐにできてしまいそうだ。つまり、地上のありとあらゆるもので、嘲笑の的にできないものなどないというのが彼らのスタンスだ。
 
エロ(性教育というより性交教育のシーンは、絵的にはそれほどエロくはないが、台詞は相当エグかった)グロ(出産と臓器移植、レストランでの嘔吐シーンは逆に絵的にエグすぎる)ナンセンス(「すべての精子は神聖なり」の歌のシーンが、次第に壮大なミュージカルになるところの馬鹿馬鹿しさは半端ではない、一方、戦場シーンはさほどいけていない)がそれぞれに過剰なところが、この映画を一概に好きだなどと言わせない。神も母親も自分自身までをも嘲笑う彼らに、不道徳だ、差別的だ、悪趣味だ、などと詰ってみても、知らんもんね。
 
しかし、この前のフランスの風刺漫画雑誌社へのイスラム過激派の銃撃テロでも分かるが、いわゆるヨーロッパ系白人のブラックユーモアのセンスを世界中の人が認めるというワケではない。こういうビミョーな笑いを分からないのは、知的レベルが低いと彼らは冷笑するだろうが、マジ切れする人がいても、不思議ではない。
 
この映画は、人間だけが特別な存在ではなく、生きとし生けるものは、すべてDNA再生産の1過程に過ぎないという認識に基づいている。これこそが、人生の意味というか、無意味の最たるものだ。地球の誕生から46億年、地球上に生命が誕生して40億年、人類が類人猿から分化したのが500万年くらい前らしい。そりゃ、いくら輪廻転生だと言われても、人間の寿命が80年として、500万年分の80年だから、6250回も生まれ変わらないといかんワケだ。昔はもっと短命だったから、ま、お一人様1万回くらいは、死んだり生まれたりを繰り返しているワケだ。前世が何だったとか、カニだったとかというのも、あほらし屋の鐘だ。
 
ブラック・ユーモアの伝統は、明らかにイギリス知的階級のものだろう。イギリスは相当数の変人奇人を歴史的に排出してる民族だが、特にイギリスの男は、辛辣でキュアリアスな奴が多いように思われる。イギリス人に次いで、奇人変人が多いのは、フランスか?スペインか?イタリアか?果たしてどの民族だ?テリー・ギリアムはアメリカ人だから、多少はまともというかナンセンス感に欠ける(というと、けなしているように聞こえるが)。この映画の本編の前に露払いのように入っている短編映画は、テリー・ギリアムの脚本・監督だが、こちらの方は。ブラック・ユーモアというより、さすがアニメ作家だけあって、ファンタジーがかったユーモア映画だった。これは好きだと素直に言える。 
 
追記
エログロナンセンスというと、戦後のカストリ雑誌の専売特許のようなものだが、当時の日本では、エロはかなリの隆盛をきわめていたようだが、グロの方はどうだったのか?エロは生きることに前向きな欲求だが、グロはどちらかというと後ろ向きっぽいから、戦後のどさくさの時期には、グロの出る幕はあまりなかったんじゃないか。。。まして、ナンセンスは、相当インテリジェンスがいるから、もっと時代が下がって、1960年代以降の高度経済成長期、一億総中流時代になって、やっと日本にも根付いてきたようだ。70年当時は、政治的社会的な意味合いが強くなりすぎたキライがあるが・・・。
 
ナンセンスギャグ漫画といえば、砂川しげひさ秋竜山赤塚不二夫黒鉄ヒロシ谷岡ヤスジ藤子不二雄A、久里洋二(他にもいっぱいいそうだが、漫画方面はうといので)など錚々たる才能を輩出してる日本漫画界の独壇場だが、ほとんどが紙の漫画止まりで、TVアニメ化されたのは子供向けのギャグ漫画だけだった。久里洋二は細々と前衛アニメ作品をつくっていたが、ここまで大々的に映画をつくるだけの資金力がなかった。その点、モンティ・パイソンは大したもんだ。さすがイギリスというべきか、彼我のカウンターカルチャーへの理解の差というべきか。ま、日本でも、クレイジーキャッツが、TVで馬鹿馬鹿しいコントをやっていたが、ナンセンスなお笑いというジャンルは、クレージーキャッツの後は、タモリまで途絶えていたんじゃないだろうか?最近、「ヨルタモリ」でのタモリのナンセンス一人芝居を見て、やっぱりタモリは凄いというのを再確認した。
 
モンティ・パイソン 人生狂騒曲(1983)イギリス MONTY PYTHON'S THE MEANING OF LIFE