『21グラム』は、話の筋が分からないのが、面白みのひとつだと監督が考えているのだろうか?

当時はこういう編集の仕方が流行っていたのかも知れないが、この映画でも、3つの話が平行して出て来て、しかも、話の順番も、それぞれの時間軸も、ぐちゃぐちゃにしてあるから、話を繋ぎ合わすのに難儀した。最後まで観ないとそれまでのシーンが何だったのか分からないというのは、本編と無関係(?)に、細切れのシーンを切り貼りする予告編と同じ手法だ。
 
こういう映画は、話の筋がなかなか分かないのが、面白みのひとつだと監督が考えているから、筋を整理してしゃべってしまうことが、すなわちネタバレになるから、まだ観ていない人は、ここから先は飛ばした方がいい。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆2人の男と1人の女がメイン・キャラクターなんだが、それぞれがワケアリの人生を送っている。1番目は犯罪歴のある男で、2年間のムショ暮らしの前は無神論者だったが、すっかり改心(?)したのか、熱心なクリスチャンに大変身し、いまや教会の主要メンバーとして、地域の悪ガキの更正にボランティアとして関わっている。しかし、首筋のタトゥが災いして堅気の仕事が長続きしない。結構肩身の狭い境遇だ。しかし、首筋のあんなところにタトゥを入れる奴がいるだろうか?ま、タトゥがかくれるようにサロンパスでも貼っておいて、『寝違えて首が回らなんのですわ』とか何とか言って、誤魔化すけれど・・・。
 
2番目の男は、重度の心臓病で、心臓移植をしないことには余命幾ばくもないというシビアな境遇で、それにも関わらず、嫁さんに隠れてタバコを喫っている。ま。かなりヤケのやんぱち、世捨て人状態だ。仕事は何しているのか、よく分からなかった。
 
ついでに、この男の嫁さんは、こいつが死んでしまう前に子供が欲しいと言って、人工授精の段取りを進めている。しかし、以前に別居していた期間があって、その間に他の男とナニをして、下手な堕胎医が中絶手術をしたことが原因で、人工授精でしか妊娠できないカラダになっているというややこしさだ。この女優、セルジュ・ゲンズブールとジェーンバーキンの愛娘らしいが、両親の艶っぽいイメージとはかけ離れた、地味というか現実味が希薄な感じだった。
 
3番目の女は、建築家の嫁さんで、ふたりのかわいらしい女の子の母親だから、はた目には、ノープロブレムの境遇だった。しかし、過去に麻薬にはまったことがあるという、ちょっとワケアリの女だ。
 
これだけでも十分ややこしいシチュエーションなんだが、それを細切れにして順不同で並べてあるから、観ている方は大変な混乱を強いられる。いっそ『メメント』くらい思い切りひっくり返してあったら、これはこれで確信犯だから、納得できないこともないこともない。
 
映画をつくる方は、毎回同じような筋の運び方では飽きてくるから、何か新味を出さないといけないと思うのだろうが、観る方はしょうもない実験的手法に付き合わされるのはまっぴらだ。小手先の編集テクニックをこねくりまわさず、もっとガシっとした骨格の映画を作らんかい。
 
はっきり言って、ショーン・ペンが演じていた、この心臓移植男のやったことには、まったく賛同できない。こんな身勝手な奴がいたら、ドナー希望者がいなくなる。何となくこの映画では、この男のやったことを赦しているような気配があるのも気に入らない。観ていて次第に腹が立ってきた。たとえどんな個人的事情があったとしても、この映画みたいな成り行きはもっての外、例外なしの御法度だ。◆解除◆ 
 
タイトルの『21グラム』は魂の重さだということだが、魂の重さとこの映画は何の関係もない。魂を売り物にするような奴に、ろくな奴はおらん。
 
21グラム 21g(2003)アメリカ  
出演:ショーン・ペンナオミ・ワッツベニチオ・デル・トロ、シャルロット・ゲーンズブール