『ビッグ・リボウスキ』のように出てくる奴の誰ひとりとしてまともじゃない映画も珍しいんじゃないか?

シービスケット』では、渋い馬主役を、『フィッシャー・キング』では、対人恐怖症のDJ役をやっていたジェフ・ブリッジスが、この映画では。ヒッピーのなれの果ての甲斐性なしでその日暮らしの男だった。髪型といい、服装といい、かつてのアメリカン・ニューシネマの画面から抜け出てきたようなだらしなさだ。 なつかしなぁ。かつてはロン毛真ん中分けができたのが、今は昔だ。ジェフ・ブリッジスは同世代だが、この映画の設定は、湾岸戦争の時期だから40過ぎといったところか?
 
ところが、このデュード(本名はジェフ・リボウスキというのだが、この苗字が災難の元凶だった)は、なぜかボーリングに入れ込んでいる。チームでトーナメントにエントリーするくらいだ。仕事もしないで、ボーリング三昧の毎日というのもなんだか優雅だ。
 
この男のボウリング仲間のヴィエトナム戦争帰りのウォルターという親爺が、諸悪の根元というか、トラブルメーカーだった。なにしろ事態を悪い方へ悪い方へと引っ張っていく。あのタイプだけは友だちにしたくない。
 
もうひとりのさえない仲間が、『ファーゴ』のスティーヴ・ブシェーミなんだが、この映画では、影薄い役なのだが、なんと言ってもあの変顔だから、どこにいても存在感はバリバリだ。しかし、気の毒なことに、この映画でも、悲惨な最期だった。
 
このところよく見掛けるジュリアン・ムーアも、前衛芸術家というのか、奇妙なキャラの役だった。しかも、この女、フェミニストだから、夫はいらないが子供が欲しい。そこで、妊娠して子供が出来たといっても、親権とかのうるさいことは言いそうにない男を捜していたのだが、周到に計画して、デュードの子種をかすめ取る。このエピソードは、めちゃめちゃおかしかった。
 
話は富豪のイカレた嫁さんの誘拐事件がメインなんだが、とんでもない展開を見せる。しかし、なにか真実味がないというのか、妙にシリアスさがない。登場人物が、揃いも揃っていかがわしい。出てくる奴の誰ひとりとしてまともじゃない映画も珍しいんじゃないか?ん?!これって新感覚のコメディなんだとしばらくして気がついた。そう思って観ると、そこいら中に笑いのネタが仕掛けてあった。とはいうものの、一般的なアメリカ人は、こういうので爆笑するのだろうか?爆笑とまではいかなかったな。
 
ところで、デュードは、「なにか飲むか?」と聞かれたら、必ず「ホワイトロシアン」(カルーアミルクと同じものかと思ったが、ウオッカが入っているらしい。どっちにしても、くそ甘いカクテルだ。あのカルーアというものの存在を知らなかった時代に、ラムと間違えて買ってしまったことがあった。開けてビックリ玉手箱。なんじゃこりゃ?めっちゃ甘い。一口飲んで、後は開かずのビンになってしまった)を注文する。こういう下らないこだわりも、マニアックなファンの獲得には、必要不可欠な手なんだろう。確かに、この監督とプロデューサーのコーエン兄弟は、タダモノじゃない。
 
ビッグ・リボウスキ The Big Lebowski(1998) アメリカ