『ジョー・ブラックをよろしく』ほど水増しした映画というのは珍しい。

あの人喰いハンニバル・レクターアンソニー・ホプキンスも出ている映画だから、もう少しましな映画かと思ったら、何とも人を喰った映画だった。しかも、長すぎる。3時間もかけないと表現できないような込みいった話じゃないだろ・・・。
 
コーヒーショップの場面で、本家ブラッド・ピットの登場のさせ方は、まずまずいい感じだった。お相手のクレア・フォラーニも結構いけてるおねえちゃんで、かわいらしいラブストーリーのようだったが、まあじっくり観ようかと思っていると、◆◆ネタバレ注意◆◆突然ブラッド・ピットが車に跳ね飛ばされる。しかも2回も。これは、もう即死だろ。
 
しかし、主人公がすぐ死んでしまうはずがない。きっと医者だと言ってたクレア・フォラーニの勤めている病院に担ぎ込まれて奇跡的に助かるのだろうと思っていると、話はぜんぜん違う方へ行ってしまった。(どこ行くの?)♪死んだはずだよお富さん♪のブラット・ピットが再登場してきたら、なんと世間知らず死神になっているではないか。世間知らずの死神というのも、ものすごく強引な設定だが。
 
それに、 人喰いハンニバルの方も、一代で大会社を築きあげた、たたき上げのやり手社長にしては、なんだか顔つきに鋭さがなく、どぎまぎした親爺の風貌で、やや迫力不足な感じだった。しかし、死神にまとわりつかれているのに、落ち着き払ってマイペースを続けられるほど神経の図太い奴はいないだろうから、あんなものかとも思う。
 
話は、会社ののっとられ騒動を絡めて展開していくのだが、いかんせん長い、長い、長~~~~~~~~~~~~~~~~~~い。いいかげんにしろ!DVDがフリーズしたのかと勘違いしそうになるほど、登場人物が長~い間をとって固まるシーンが何度もある。ブラット・ピットがピーナツバターを初めて舐めてみて、結構いけると思うのは勝手だが、そんなエピソードをじっくり撮っても仕方ないんじゃないか?さらっと流せよ。さらっと。
 
途中は端折って、さて問題のブラッド・ピットとクレア・フォラーニの濡れ場だが、観ている方が顔を赤らめそうな、うれしはずかしチェリーボーイ映画になっているじゃないか。いくら世間知らずの死神だといっても、あのシーンの演出はやりすぎと違うか。いや、ファンにとっては、あのシーンこそが、この映画のハイライトかも。ブラッド・ピットの演技は、ある意味で真に迫った熱演だった。あの瞬間に、視線を宙に泳がすところなんてうまいもんだ。
 
終盤、レクター親爺も少し気力を取り戻して来るが、死ぬ前になって気力が戻るというのもおかしなことだ。いよいよレクター親爺が、時代劇でいったら「この桜吹雪が目に入ェらね~か」と一世一代の啖呵を切ってやろうというところで、ピットに横取りされてしまう。しかも、世間知らずのはずだったピットが「俺は国税局のエージェントだ」と言い出す。ピーナッツバターすら知らなかった男が、伊丹十三の『マルサの女』を観たことがあるようにも思えないし、国税局のエージェントとはなにかを知っていたとは、到底信じられない。この辺でギブアップ寸前だった。
 
あの長女が仕切っていたハンニバル親爺の誕生パーティも、主役が部屋に籠もってごそごそしていて、なかなか招待客の前に出て来ないものだから、いまいち盛り上がりに欠けていたようだ。ま、この後は、ちゃんちゃんちゃんとエンディングに向かって話が進んでいって、誰でも想像できる終わり方だった。3時間かけて最後がこれか?これって一応ハッピーエンド?ま、花火だけは華々しかったけれど。。。◆解除◆
 
この死神は、世界のあちこちで、多くの人間に引導を渡してきたようだが、死ぬ間際の人間にとっては、現世の金に纏わるすったもんだはもう関係のない話だろう。まして、国税局なんかおおよそ死にかけている人間との会話の中で話題になりそうもないはずだが、死と税金は何人といえども逃れられないものであることも事実だから、税金はきちんと払わなければいけないと、納税の義務を説いている税務署のPR映画か?
 
と、まぁこういう映画の場合、監督が何を言いたかったのか、好意的深読み(税務署のPR映画のどこが深読みなんだ?)をしないといけないのだが、あまりにもだらだらと長すぎたので、もはやその気力も失せた。小説でも水増しした長編というのがあるが、これほど水増しした映画は珍しい。
 
シーンそのものは、ストーリーの展開と関係なくはないのだが、新手の淡々狸映画というべきか、ひとつひとつのシーンが少しずつ長い。長すぎる。監督にしてみれば、せっかく撮影したフィルムだから、カットするのが忍びなかったのかも。。。この監督、きっと貧乏性なんだね。いずれにしろ星野元阪神タイガース監督じゃないが、「ああ、しんどかった」。
 
ジョー・ブラックをよろしく MEET JOE BLACK (1998)アメリカ
監督:マーチン・プレスト
出演:ブラッド・ピット アンソニー・ホプキンス クレア・フォラーニ