『アイ・アム・サム』は、しんみり泣ける話だが、こういうシチュエーションの場合は泣かない。

この映画はビートルズナンバーがふんだんに聞ける。 ビートルズ好きにはこたえられない映画ではある。ビートルズは中学2年の秋に日本デビューした。最初に聴いた"Love Me Do"がボディブロウ気味に効いているところに、次の"Please Please Me"の強烈な左ジャブが打ち当たってガクンとなり、さらに"I Wanna Hold Your Hand."の右ストレートがカウンター気味に飛んできたときは、脳味噌がシャッフルされてしまって、もう棒立ちだった。留めのパンチは、どどんどどんと"She Loves You."の連打が炸裂してノックアウト。一巻の終わりだった。それ以来半世紀、ビートルズ一筋。なんという人生だったのか。それにつけても悔やまれるのが、ビートルズの日本公演に行かれなかったことだ。
 
そう、あれは高校2年の梅雨時だった。ビートルズの日本公演はチケットが抽選だったが、大阪から行こうと思えば、チケット付きのパックツアーがあった。ワールドカップの弾丸ツアーと同じだ。わが家は赤貧洗うがごとしだったから、親に「おら、東京さへ行かせてけれ、ジョンに会いてぇだ」とは、とても言われなかった。泣く泣く諦めて、なんとニュークリスティミンストレルスの大阪公演を見に行った。何故またニュークリスティミンストレルス(長いな、この名前)なんだと問われたら、聞くも涙、語るも涙の物語があった。
 
つまり、こうだ。友人2人がビートルズ見に行った。ビートルズのチケット付きツアーは、大阪での外タレコンサートのチケットをもう1枚購入することが条件になっていたのだ。プロモーターが抱き合わせ販売という汚い手を使ったのだ。それで、その余ったチケットをもらって、もうひとりのやはり見に行けなかった友だち(こいつは、金持ちA様だったが親が許さなかった。当時ビートルズに熱をあげているようなガキは不良という風潮があった)と一緒に見に行ったのだった。情けない話だが、いまさら何を言っても仕方ないが、あの時は貧乏を呪った。
 
♪うちがなんぼ早よ~ 起きても お父ちゃんはも~ 靴とんとんたたいたは~る~ ウチのこと あんまりかもうてくれはらへん お父ちゃんも と~きどき 服買うてくれはる~けど うちやっぱりおかあちゃんに 買うてほしぃ♪『チューリップのアップリケ』という切ない歌を口ずさみながら「銭がないのは首がないのと一緒や」と大阪商人の血が騒いで、あれ以来、私は守銭奴となってベニスの町に君臨していないが、苦節47年後の2013年11月11日、「PAUL McCARTNEY OUT THERE JAPAN TOUR IN OSAKA 2013」に行くことが出来た。チケットは先行抽選ではハズレだったが、追加公演の抽選になんとか当たったのだ。元々はジョン・レノンが贔屓だが、ポール・マッカートニーが嫌いな訳ではない。というか、好きだ。大好きだ。いやはや、最初の曲「Eight days a week」が始まったとたん、涙がこぼれてしまった。その後2時間半に亘って、ポール・マッカートニーの絶唱が続いた。いやもう、完全にノックアウトされていた。心は10代の頃に戻っていた。
 
そのポール・マッカートニーが、またまた来日した。昨年5月、体調不良で急遽中止になった時は、あの武道館での48年ぶりの公演が組まれていたのだが、国立競技場での公演と大阪のヤンマースタジアム長居での公演も流れてしまった。今回は大阪1回、東京2回公演だが、どちらもドーム球場だ。国立競技場は改修工事が始まってしまったが、長居の方はセレッソがJ2落ちしたから、いつでも使えるんじゃないの?出来たら、大阪だけでも屋外コンサートにしてもらいたかったので、チケットは買わなかった。しかし、追加公演で武道館でのコンサートが実現したのだ。行くべきか行かざるベッキーか、さんざん悩んだが、結局行かなかった。行けなかった。ま、いいか・・・。
 
さっさと映画の話に戻れって・・・。主役のショーン・ベンは、この映画でもリアリズムの追求が凄かった。『レインマン』のときのダスティン・ホフマン自閉症患者の雰囲気をうまく演じていたが、 この主人公サムは、ホンマものと思った。「あほぼん」で一世を風靡した藤山寛美も真っ青。
 
辣腕弁護士役のミシェル・ファイファーも、まずまずリアリティがあった。高校時代の同級生の女の子(子と言ったら怒られそうだが)も弁護士やっているが、あんなにかっこよいわけがない。
 
それにしても、あの子役の女の子はしっかりものだった。ある種理想の賢い少女像に近かった。(私自身はロリコンにあらず)あんなにかわいくて賢くて健気だったら、誰でも里子に欲しいだろう。 私的には、この子とか『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』のサガちゃんが贔屓だ。
 
この映画もしんみり泣ける話だが、前にも書いたと思うのだが、こういうシチュエーションの場合は泣かない。かなしいとか、かわいそうとかで、涙を流すことを侍はしない。(誰が侍?)私自身は、ニンベンではなくてヤマイダレに寺の持ち主なのだが・・・。それでもいい映画には違いない。グスン(誰だ?そこで泣てるのは・・・。)
 
アイ・アム・サム I AM SAM.(2002)アメリカ
監督 :ジェシー・ネルソン