『至福のとき』は、大人のファンタジーと言ってしまえば、身も蓋もないのだが・・・。

初恋のきた道』のチャン・イーモー監督の「しあわせの3部作」の最終章とDVDのパッケージの裏面には書いてあるが、心温まる感動と涙の物語ではなかった。ま、心が冷え冷えすることもなかったが、感動作ではないし、幸せにもならなかった。
 
落語というか、人情話というか、いい歳をした男が、小娘のために(自分のためでもあるが)まわりの同僚まで巻き込んで見え見えの(?)大芝居をうつという話の展開に、かなり無理はあるものの悪い気はしなかった。というか、この展開こそが映画なんだ。現実の世界はこんな風にちょっと変わっているけれど、心やさしいおじさんやおばさんばかりではないし、ヒロインの少女にしても、あんな風に切なくなるほど世間知らずではない。大人のファンタジーといってしまえば身も蓋もないのだが・・・。
 
初恋のきた道』では、不覚にも落涙してしまったので、この映画はを観る前から、ちょっとやそっとのことでは泣かんぞっと、固く決心して臨んだのだが、◆◆ネタバレ注意◆◆いざ映画が始まると、風采のあがらない中年の男と標準体重オーバーのおばさんの再婚話みたいで、その中年男が標準体重オーバーおばさんの家に行くと、そこにまた憎ったらしい標準体重超オーバーのガキがいる。
 
ああいうデリカシーのないガキが大嫌いだ(標準体重超オーバー状態が嫌いなワケではないが、あとでそのガキにピアノを習わす積もりだというが分かったときは噴飯ものだった)から、何じゃこりゃ?と思っていると、パンツ一丁の娘さんが、隣の部屋からえらい慌てて走リ出て来てトイレに駆け込んだ。これがヒロインのドン・ジェなんだが、初めは13才くらいかなと思った。かわいい顔をしているけれど、まったく色気がない。なにしろえらいペチャぱいなんだ。しかし、いくら色気がないといっても、あんなに何度もパンツ一丁のシーンを撮らなくてもいいのじゃないかえ。ちょっと変態気味の監督だと感じたのは、私ひとりだろうか?◆解除◆
 
この映画に出てくるおじさんやおばさんの台詞のイントネーションや身振り手振り、顔の演技までよくよく観察していると、吹き替えはあきらかに関西弁がぴったりはまることが判明した。声の調子は完全に関西弁だ。香港映画のカンフーものやギャングものの場合は、あまり関西弁風イントネーションを感じないが、この映画は関西弁が妙にしっくりはまる。
 
故藤岡琢哉似のおじさんが酔っぱらってぼやいていたシーンの台詞を関西弁に吹き替えてみようか。
 
詐欺師やぬかしよった。だれが詐欺師やねん?
そっちはどうなんや?なんちゅうおなごや?ホンマに。
手ェ早すぎるやないか。ワシとゆーれっきとした男ががおるちゅーのに
知らンまによその男を引っ張り込みやがって。。。
行ったら何しとったと思う?抱き合うてキスしとったんや。
ぶっさいくな顔のくせに。(間)太ってるおなごゆーのは、
もっと心もあったか~いもんやと思とったのに、
とんでもハップン、走って10分や。
ホンマ氷みたいに冷たいやっちゃ。このインケツ氷まんじゅう。
ブタ女のくせして、こんなしゅっとした男前をバカにしくさって、
おのれの姿をじっくり見てみぃ。このハムのヘタ。
舌咬んで死ね。。。
 
振られたおじさんの悔しさ、無念さ、つまらないない女と関わってしまった自分自身への情けなさがひしひしと伝わってくるようだ。思わずもらい泣きしそうになった。
 
この映画もつっこみ出すと霧がなくて愛想なしの摩周湖だが、あまりつっこむのは、かわいそうな気もする。ま、ひとつだけにしておこうか。おじさんが娘の頼みでアイスキャンデー買って来て、娘に食べさせるシーンがあったが、「ここに座ろう」と言って座ったのが、いざ立ち上がったら、歩道の端とはいうものの道のど真ん中じゃないか。近頃のすぐにへたり込むガキたちでも、あんなところには座らんよ。
 
ラストシーンを語るのは御法度だろうが、このエンディングは、最初やや唐突な感じがしたが、よくよく考えると、この手の映画は、あまり感動的なエンディングもどうかと思うし、かといって、ハッピーエンドは禁じ手だし、終わり方を必死に考えた結果が、ちょいとばかし肩すかし気味に終わるという、あのエンディングになったのかも・・・。
 
もうひとつ、この映画の場合は、英語の題も邦題もなんだか変だ。英語の方の『HAPPY TIMES』は、安物のPR誌かミニコミ紙のタイトルみたいだし、邦題の「至福のとき」といえば、普通はめくるめくエクスタシーのことだ。確かに、マッサージをしてもらって気持ちよくなりすぎて、いびきかいて寝ている親爺が出てきたが、あれは、まさに「至福のとき」だろうから、邦題の方が、当たらずといえども遠からずか。。。
 
至福のとき HAPPY TIMES(2002)中国
監督:チャン・イーモー 
出演:ドン・ジエ チャオ・ベンジャン