『フィラデルフィア』は、エイズで次第に衰弱して行くトム・ハンクスの顔演技が凄かった。

この映画はCGも特撮も使っていない。特殊メイクは使っただろうが・・・。何しろエイズで次第に衰弱して行くトム・ハンクスの迫真の顔演技が凄かった。映画の製作は1993年だから、まだアメリカでも、エイズに対する拒絶反応が残っていた頃だ。ゲイとエイズと裁判の3題話なんだから、結末は何となく誰もが納得できなければいけないのだが、こういう映画は、その結末に辿り着くまでの過程をどう見せるかが、監督の手腕だ。
 
アメリカのエイズは、いつ頃から社会問題化したのか、記憶が定かでなかったから、ネットで調べてみた。 
 
1979年、ニューヨークでカポジ肉腫という珍しい腫瘍にかかった若い男性が2人、それぞれの医師の診察を受けた。同様の症状を持つ若い男性の存在が、アメリカの他の都市でもすでに確認されていた。さらに、カリニ肺炎というこれまた稀な症例が、アメリカ各地で別個に報告されていた。医師の頭をひねらせた一連の不思議な出来事が、そもそもの発端であったと気づくまでには、かなりの時間が必要だった。(後略)
1994年世界保健機構より刊行された「エイズ、その実像 (AIDS: images of the epidemic)」 http://www.hokenkai.or.jp/2/2-5/2-55/2-55.html より抜粋
 
日本では、薬害エイズの方が深刻だったけれど、アメリカでは、エイズはゲイや麻薬中毒者に特有の病気として、最初に認識されたのだった。ロバート・メープルソープもキース・ヘリングエイズで死んだ。同性愛者に対する差別もきっとひどかったのだろう。そういえば、日本の血友病患者の人に輸入非加熱血液製剤を投与してもいいというお墨付を与えて、HIV感染者を多勢生み出してしまった元帝京大副学長も、とうの昔に鬼籍に入ってしまっていた。
 
エイズが不治の病だと言われて、予防法も治療法はっきりしなかった頃の話だから、ゲイで、しかもエイズに罹っている男が自分のそばにいることが分かったら、激しい拒絶反応を起こす奴がでてくるのも致し方ないのと違うだろうか。
 
◆◆ネタバレ注意◆◆あの社長は卑怯な手を使って、トム・ハンクスをクビにしたのだが、敏腕弁護士だったトム・ハンクスが大事な訴状を紛失したというのが解雇の理由だったが、提出期限ぎりぎりで見つかって、間に合ったのだから、普通は「ま、こんどから気をつけろ」で終わる話じゃないか?アメリカでは、この程度のチョンボで、あっさり解雇できるのだろうか?弁護士が弁護士を雇って、弁護士事務所を相手に訴訟を起こすというのが、この映画のミソなんだが、トム・ハンクスが自分の弁護を自分でやった方が、映画としては、もっとスリリングになったのではなかろうか?
 
裁判劇はアメリカ映画の十八番だが、この映画も、裁判シーンが圧巻だった。デンゼル・ワシントンは、いかにも庶民派の弁護士という感じだったし、なかなか説得力のある弁護を展開していた。しかし、一番関心したのは、あの陪審員の親爺さんだ。弁護士事務所側の「若手弁護士でしかないトム・ハンクスの能力を試すために訴訟の責任者にした」というでっちあげの主張に対して、あの親爺さんの「ここ一番の大きな仕事のときに、青二才の能力を試すために、そいつにチャンスをやったりするだろうか?」という発言がなかったら、他の陪審員の判断も変わったかもしれない。確かにトップガンの喩えは、6歳児並みの脳ミソでもよく分かる説得力があった。 ◆解除◆
 
ところで、アントニオ・バンデラスが、トム・ハンクスのパートナーのゲイ役で出ていたが、この俳優もゲイっぷりがうまかった。『オール・アバウト・マイ・マザー』で、オカマのアグラード役をやったアントニア・サン・フアンと一緒で、てっきり本物だと思ってしまった。しかし、まぁ、アントニア・サン・フアンの場合は、オカマじゃなくて、ホンマモノの女だったけれど・・・。
 
フィラデルフィア(1993)アメリカ PHILADELPHIA 
出演:トム・ハンクスデンゼル・ワシントンアントニオ・バンデラスジェーソン・ロバーツ、メアリー・スティーンバーゲン